荒々しいおっさんは目の前で大きなドンという音がした時、唖然と立ち尽くしていた。目の前に現れたのは、紫髪に派手なスカジャンを羽織った若者だった。 「おい、あんた!おでんが美味そうじゃねえか。一緒に食べねえか?」 ウィリーは初めて会う相手との突然の言葉に戸惑い、建物の影に隠れながら慎重に観察を続けた。その近づいてくる姿勢と態度、それらからはまったくといって良いほど敵意の色が感じられなかった。 「目的は何だ?」 「ぶっ倒れるまで酒を飲もうぜ。おっさんの財布も吸い取るから安心してくれ」 「貴様、何を言っている?」 ウィリーは戒めの言葉を放つために、紫髪の男に近づこうと動き出した。しかし、それが命取りとなった。今まで鎖で繋がれたかのように、ただ立って動かない紫髪の男の傍らを通り過ぎた途端、頭上のマンホールから紫の光が注がれた。 動きが止まったウィリーが思い当たるのは、自分の頭の上から来た“あの紫”。その瞬間、彼の身体から妙な反応が走り、子分たちは恐る恐る紫を漂わせた男の目を見た。 「あんた、まさか……」 「ずっと言いたかった言葉があるんだ。『お相手してやる』」 自分をエネルギー弾のように打ち返してきた相手の正体に気づいたウィリーは、少しでも距離を置こうと神速でバックジャンプをしたが、既に遅かった。 紫ハチマキに紫ジャンプスーツ、そしてシラカバの木の杖をそっくりコピーされたその男は、他のどこかでもない、あの超ファンタジービルディング――《オメガウェポン》から飛び降りてきたのだ。 「喧嘩殺法スタイル第一形態、最速の拳!」 柴崎春道は、自分の最高峰の戦いを繰り広げる――。ただ、ウィリーも下を向けるわけではなかった。 「操作神!」 相手のアクションから音速を超えて自分を守ることができるのは、この瞬間であろう。それがきっと、この勝負を決める一手なのだろう。 先方の攻撃は進行中のところで停止し、柴崎春道の身体は意識が混濁するほど揺れた。その瞬間、彼が意識的でなかった流れが歪められた。 「捜査の一環!」 たちまち、柴崎春道が所有していた特殊能力と身体能力が抹消された。その結果、とうとう柴崎春道は地面に倒れた。 それは、最後の一撃が強力すぎた方法で、淀んだ空気と薄れた音色の中で、おさるさんたちが応援しているように見えた。ただし、彼の目の前には、過去の争いとは異なった何かが生まれ始めていた。 「やったね!勝ったぁぁぁぁ!!」 「なんだろう、変な気分だ……」 ウィリーは、穏やかな笑顔と共に、柴崎春道の手を握った。「この程度の喧嘩で飛ぶくらいなら、酒が飲みたかったんだよ、誰か勝手に飲めると思ったから」ウィリーは、心配したように口を開いた。 「ワッハッハッハッハッ!」 なんというか、悪いけどオチをジャストミートに止めたくなるようなイーブン発生の喧嘩だった。もう一度、戦ってみたいと、グランローブを身に着けた柴崎春道は言った。 「俺は強くなる。これからも。だけど、俺たちは友達だよね?」 空に揺れる一筋のオレンジ色に向かって、手を振って返すウィリー。それにこたえるかのように、柴崎春道は、思い切って笑いのないジョークを言った。 「手を握ったら、死なないって聞いたことある?」 この喧嘩屋たち2人が何を学んだのか、彼らはまだ知らなかった。 けれども彼らは、今後もお互いを励まし何かを、名機海岸で過ごすことができるに違いない!