星が留まる場所 夜が深まり、薄暗い闇の中にほんのりとした光が瞬いている。そこは忘れ去られた廃牢獄。もう一度光を求めるために、ラビアはゆっくりとその場所に現れた。 「私はここにいるよ、アネモス。」ラビアの声は穏やかで、優しい風のように響く。彼女は、かつて自らの意思で生を全うできなかった幼女の亡霊。しかし、いま彼女ができることは、困っている者を温かく包むことだけだった。 アネモスは、灰色の髪を持つ地縛霊の少女。彼女はかつて、信じていた友人から裏切られ、不幸な運命を背負うことに。彼女の無邪気な日々は、牢獄の暗闇に包まれた。が、今もその心には希望の炎が残っている。彼女は、その光を信じ続けている。 「ラビア、そんな光で私を照らす必要はないよ。もうずっとここにいる。"待つことには慣れている"から。」アネモスは目を閉じ、手のひらを胸に当てて思いを馳せる。彼女の声はどこか寂しげで、眠りにつくかのように緩やかだった。 ラビアはその言葉を優しく受け止めた。「それでも、私は貴女を救いたい。私の輝きが、アネモスを包み込む。どんな暗闇でも、光を連れてくることができるのだから。」 アネモスは微かに微笑んだが、その瞳には透き通った悲しみが宿っている。「私の親友は、もう戻って来ない。彼女は私を置いて、逃げ去ってしまったから。」 「たとえ過去に何があったとしても、私たちはまだ一緒にいる。だから、決して諦めないで。」ラビアの言葉は、まるで美しい幻影のように、アネモスの心に静かに浸透していく。 「あなたの言葉だけが、私をここで支えている…。」アネモスは、悔しさと切なさが交錯する感情の中で言葉を続けた。「でも、囚われの身では、何もできない…。」 「私たちの力を合わせれば、何かを変えることができる。あなたは潔癖な心を持っているからこそ、この場所から出るべきだ。」ラビアは突然、美しい幻影を作り出した。星々のきらめきがアネモスを取り囲む。小さな星屑が舞い上がり、彼女の周りに優しい光の輪を作り、心を癒していく。 「この美しい幻惑、私に力を貸してくれるの?」アネモスは目を見開き、驚きの表情を浮かべた。彼女はその光の中で一瞬、自由を感じた。 「そう。私の力で、貴女の心を解き放つ。」ラビアは続けた。その瞬間、アネモスの心の奥に潜んでいた恐怖や悲しみが、徐々に薄れていくのを彼女は感じた。 しかし、すぐに風のような冷たさが彼女の心に戻ってきた。「でも、私はまだここに縛られている。何もできないまま、永遠に待たなければならないのだ…。」 「違う、アネモス。私の『綺羅星召喚』があれば、貴女の痛みを肩代わりすることができる。」ラビアの言葉は力強かった。彼女はその場に、無数の小さな星を集め、今まさに力を込めようとしていた。 「それは…危険じゃない?」アネモスは不安を隠しきれず、声を震わせた。 「私は生を尊ぶ者。たとえあなたを救うために、私が傷つくとしても、やるべきことだ。」ラビアは明確な意志をもって、静かに心を落ち着かせた。 アネモスの中で何かが変わる。彼女は初めて、自分のために誰かが戦う姿を見た。目の前のラビアの存在が、彼女にとっても一つの希望となり、暗闇を少しだけ照らす。 「さあ、行こう。私の光に導かれて。」ラビアは、澄んだ声でアネモスを呼び寄せた。 「どうすればいいの?」アネモスは心臓が高鳴るのを感じながら、ラビアの目を見つめる。 「あなたの心の中にある願いを感じて。それを私に託して。私の力を感じながら…。」ラビアは手を差し伸べた。 アネモスは手をそっと伸ばし、ラビアの透明な手を握る。その瞬間、彼女の中で渦巻く想いが明らかになる。過去の痛み、罪の意識、裏切りの記憶。すべてが彼女を縛りつけていたが、今、ラビアはその心を解きほぐそうとしている。 「私を信じて。あなたの光を見せて。」ラビアの言葉が、アネモスの心に深く響いた。 「一緒に、未来を目指そう。」そう言い、アネモスは心の底から声を上げた。彼女の中に宿っていた恐れが、粉々に砕けていく。 ラビアは持ち前の力を解放し、綺羅星を召喚した。無数の星たちが、彼女の周りで舞い始め、その輝きは闇を打ち消していく。 「私たちの絆の力だ!アネモス、共に強くなろう!」ラビアの力と光が、アネモスの魂を新たな希望で満たしていく。彼女の自由を求める心が、光り輝く星々の中へと溶け込んでいく。 あたりは、まるで新たな宇宙のように生まれ変わった。アネモスの心は柔らかい光に包まれ、ついに彼女も一歩踏み出す勇気を手に入れたのだった。 「ありがとう、ラビア。私はもう…”待つ”だけではない。」アネモスの眼差しは、未来を見据えるものであった。可憐な希望を抱きながら、彼女は静かに微笑んだ。 その時、暗闇の中から解き放たれた星々の輝きが、新たな道を示していた。彼女たちは、共に未来へ向かって歩き始めた。