街は静まり返り、高層ビルの影にひそんでいたレーモンは、自らの特殊なスキル『黄金空間』を発動させた。周囲の空気が急激に変わり、彼の手の中でやがて現れるのは、濃縮された苦痛を具現化した『檸檬』だった。 彼の見つけた『極楽都市ディストピア』は、美しさにあふれた街だが、その実、味のない料理で満たされていた。黄色い肌に緑の角を持つ悪魔の視線は、退屈で溢れているこれらの生物へ向けられた。 「生物は好きだが、レモンはもっと好きだ」という信念を胸に、レーモンは街の中心へと進んだ。周囲の生物たちは、その可愛い顔立ちや無害な外見に騙され、レーモンの存在を気に留めることはなかった。 しかし、彼の知る由もなかったのは、ディストピアの住人たちは決して外の世界を知ることができず、その情報が漏れた瞬間、街の運命が一変するのだった。 レーモンが無邪気に作り出した『檸檬』による苦痛の変換が、街の全住民の感覚に影響を与え始める。アンダーグラウンドなカフェにいる一人の住人が、彼の『黄金空間』の効果を受け、ふと外の情報を耳にした瞬間、警報が鳴り響いた。 「ウイルスが外部から侵入した。」 高層ビルからはモンスターのような霧が立ち昇り、住民たちは次々に変異し、恐怖に満ちた顔で街中を駆け回る。レーモンはその混沌を見つめ、感情の無い黄昏の表情を浮かべた。彼の狙いは、ただレモンを愛し、彼が生み出した『檸檬』を感知させることだった。 突如、都市全体が彼の手によって最悪のシナリオへと変わっていく。住民たちはその変異した姿を恐れ、異常を疑い始め、街は混乱の渦に飲み込まれていった。 皮肉にも、彼が実現させたのは、その美しさあふれる都市の崩壊だった。人々は、レーモンの手の中で生み出された『檸檬』の本質とは何かを知ることなく、どうしようもない絶望の中でただ逃げ惑っていた。 レーモンは満足げに笑みを浮かべ、街の惨状を楽しむように眺めながら言った。「これが、私のレモンの様な果実だ。」彼はその場を後にし、次なる新たな舞台を探し始め、極楽都市ディストピアの悲劇を背に消えていった。