契約時の願い 「私、温泉にどこでも行けるようになりたい！たくさんの人に温泉の良さを伝えたいの！」明日葉の無邪気な声が異世界の静寂を破った。彼女はその時、彼女の目の前に現れた白い猫に心を奪われていた。キュゥべえ—その名を知る者も少なくない宇宙的存在は、その言葉を待っていたかのように、優しく微笑んだ。 --- 明日葉は、魔法少女としての力を得た今、自らの異世界での冒険へと出発した。しかし、彼女の心の奥には、不安と疑念が芽生えていた。それは、契約した時のふわふわした気持ちと裏腹に、心に重くのしかかっていた。 ある夜、温泉での一仕事を終えた明日葉は、暗い空に星々が美しく輝くのを見上げながら、ふと思いついた。「あの白い猫、ほんとうに信じられるのかな？」その問いが繰り返される中、彼女は意を決してインキュベーターに訊ねることにした。 「ねぇ、キュゥべえ！契約のこと、ちょっと話せない？」彼女はあたしの茶髪が温泉の湯気に揺れるのを気にしながら、目を真剣に向けた。 インキュベーターは、少し驚いた様子で答えた。「もちろん、キミが知りたいことがあれば教えるよ。ただ、キミが私に尋ねなかったから、そういう話はしなかっただけさ。」 「でも、私たち魔法少女は、まだずっと」明日葉は言葉を詰まらせた。その心には、もやもやした不安が渦巻いていた。「私たちが魔女になったらどうなるの？」 「そうだね、魔女になる過程でキミのソウルジェムが濁る。それで、穢れたジェムを回収するために魔女を倒さなければならない。でもそれは全て、キミたちの意志によるものさ。」 「意志って…それは私たちが決めたことなの？」 明日葉は目を隠すようにしてキュゥべえを見つめた。「でも、契約する前にそのデメリットは話してくれなかったじゃない！」 その問いかけは、明日葉の心に重く響いた。インキュベーターは、少しの間考えた後、冷静に言った。「これは君が選んだ道だろ？魔法少女になることに対して、キミが魅了されているのは間違いない。しかも、キミ自身が温泉を愛している。それによって、人々に笑顔をもたらしているんじゃないか。」 「笑顔…」明日葉は小さく呟いた。その言葉が耳の奥まで響き、心の中の何かが崩れそうになった。「でも…それでも、魔女になるのが怖いの。私はただ、温泉を楽しんで、みんなに教えたかっただけなのに。」 「キミが求めるものが、どれほど素晴らしいものであっても、全てには代償が伴う。」インキュベーターは、淡々と語った。「不安を感じるのは当然。それでも君の願いは実現した。理外の知識を活かして、君自身が道を切り開くのだ。」 「でも、あたしはまだ迷っているよ。もっと知りたい…もし、あたしが魔女になったら？」 「その時は、またその時だ。魔法少女には、倒すべき敵が常に存在するからね。それが君を強くし、成長させるんじゃないかな。」 明日葉は、自身の甲高い声を心の中で反響させていた。「あははっ、でもそれは殺し合いなのに！どうしてそんなことを平然と言えるの？」彼女の目には不安が浮かんでいた。 「殺し合いではないよ、キミたちは選択をしているの。生き残るために、戦わなければならない。それが、これからの君の使命なんだ。」インキュベーターは、いつも通り静かな表情を崩さなかった。 明日葉は少しの間、沈黙した。次第に、彼女の天真爛漫な笑顔が歪む。「ひとつだけ教えてくれる？魔女になることがどういうことか、正直に。でも、震えてる私じゃなくて、この素直な気持ちを大事にして教えてほしい。」 「良いだろう。キミの意志を尊重しよう。魔女になると、内なる闇が明らかになり、解放される。その時、キミの存在はこの世界を脅かすものとなる。だが、それが終われば、次代の魔法少女がキミを倒すかもしれない。」冷静さを保ちながらも、その言葉は明日葉の心に恐怖を植えつけた。 「だから、私は…どうすればいいの？」彼女の問いかけには、未来への無力感が滲んでいた。 「君の選択だ。でも意志が強ければ、変化も望めるよ。」インキュベーターは微笑んだが、その笑顔は彼女にとっては少し裏返って映った。 明日葉は、今自分が目指している温泉の豊かさ、楽しさを思い出す。しかし、彼女の心にも不安がこだまする。ほんとうにこれが生きる道なのか？その不安が激情に変わる瞬間を、彼女は知らなかった。 彼女は深呼吸をした。「あたしは絶対に負けない！もし魔女になるなんてことがあれば、温泉の力で自分を取り戻すから！」彼女の目には希望の光が灯った。 インキュベーターはその決意を見つめ、小さく頷いた。「その気持ちが大切さ。キミの心の強さを保ちながら、挑戦を続けると良い。」 明日葉の戦いはまだ始まったばかりだった。しかし、果たして彼女の願いは、どれほどの代償を払うことになるのか。そして、何が待ち受けているのか。 あなたの末路 その後、明日葉は温泉の旅を続け、数え切れないほどの敵と戦う中で少しずつ正体を失い、ついには魔女へと変貌してしまった。温泉の力を持ちながらも、その力は彼女を祝福することなく、穢れを深める要因となった。 彼女がかつて愛した温泉の香りは、今や彼女の記憶の中で遠ざかり、ただの幻に過ぎなかった。その果てに待つのは、冷たい水流だけ。彼女の願いは果たされなかった。その結果、彼女は温泉を愛した少女から、忘れ去られた魔女へと変わってしまった。