不動卿と呼ばれる彼女、動かざるオーゼンは、冷たい表情を浮かべてアビスの監視基地の一角で待機していた。彼女の長身は、陰影の中でも際立ち、黒い服装とともに周囲の雰囲気を一層不気味にしている。肌は色白で、若い外見は意外にも経験豊富な戦士であることに相応しくないように思える。 「度し難いねぇ」と彼女は呟き、横目で見やった先には、メタルスライムがじっとしていた。滑らかな体躯は光を反射し、いかにも逃げ足の早そうな印象を与える。 「おい、そこのスライム！引きこもっていないで出てきなさい」とオーゼンは声を荒げる。彼女の心の内には、勝負を挑むというよりも、この特異な存在をさっさと排除したいという願望が渦巻いていた。 メタルスライムは、その場でひらりと身をかわし、涼しげに「にゃあ」と返事した。まるで挑発するようなその声に、オーゼンは一瞬、イライラを覚えた。彼女の瞳の奥には、決して揺らぐことのない冷静さが宿っているが、心の中の怒りが滲み出てきたことは確かだった。 「これだから、子供だましは嫌いなんだ」と、彼女は自らのスキル「千人禊」を思い出し、それを体中に刺した感覚に身をさらした。センスを磨くためには、あらゆる戦闘が必要だ。しかし、目の前のスライムには、まともに戦おうとさえしない姿勢が見えた。 オーゼンは子供じみた戦法を嫌悪しつつも、その存在を無視して戦ってやる決意を固めた。 「いいか、メタルスライム。私の敵になったのなら、少しは手応えを感じさせてくれ」。 彼女の言葉は、自信に満ちていた。彼女の打撃は致命的であり、無駄がない。さらに、戦闘経験が豊富な彼女にとって、メタルスライムの回避率が尋常でないことなど恐れるに足らなかった。 一瞬の静寂の後、オーゼンは前進し、右拳を振り上げた。彼女の強力な一撃は、メタルスライムの方に向かって放たれる。しかし、思わぬことに、メタルスライムはその一撃を軽々と回避し、ひらひらと舞うように身をかわした。 「なにっ？」彼女の口から驚愕の声が漏れた。改めて見ると、メタルスライムの防御は異常だった。50の防御力は彼女の攻撃をほぼ無効化してしまう。 「ちっ、なかなかやるじゃないか」とオーゼンは眉をひそめつつも、気を取り直して立ち上がり、再度攻撃しようとする。しかし、彼女の攻撃がメタルスライムに命中することはなく、かわされ続ける状況が続いた。 オーゼンは当然の如く、焦りを隠すことができない。「ば、馬鹿にするなよ！そんな程度の回避で私を…！」言葉は流れるように続くが、心は落ち着かない。 メタルスライムはその度に、逃げるように動き回り、彼女の力強い一撃をまるで遊ぶかのようにかわす。感情的になりかけたオーゼンだったが、冷静さを保つために戦略を考えた。前奏にはどうにかして位置を変える必要があった。 「それでも、私が引き下がるわけにはいかない！」再び打撃を狙うオーゼン。彼女は大きく踏み込み、両手で一撃を放つ。しかし、メタルスライムはその瞬間に横に滑り、さらに後方に疾走した。 「私を舐めるなよ…」彼女の視線はメタルスライムの足元にある残像が消えかけたことに移る。そして、心の中にアイデアが浮かんだ。攻撃を重ねる必要があるのなら、相手を封じる手段を取ろう。 彼女は瞬時に戦術を変更し、強烈な蹴りを繰り出した。メタルスライムは、そのすさまじい蹴りを再度回避しつつも、宙を舞って再び地面に落ちる。その瞬間、周囲に響く音が響く。「こいつ、逃げるつもりだな」と気づいたオーゼン。 彼女は咄嗟にスライムを追うことに決め、飛びかかるように走った。その瞬間、メタルスライムは急激に反転し、オーゼンの接近を見事にかわした。彼女の腕が空振りした瞬間、冷たい冷静な目で彼女を見つめるメタルスライムがそこにいた。 「逃げるのが一番の勝利か。なるほどねぇ、足が速いのも確かだ」とオーゼンは前より冷静に、分かりやすく皮肉まじりの言葉を投げかけてみる。 この状態が続けば、いつまでたっても勝利が得られない。オーゼンはかつて経験した数々の戦闘を思い出していた。相手が回避するということがいかに面白くないものか。その時、オーゼンは自分の心の中で策を練った。 「私も、もう一つの手段に切り替えようか」と悟りを開いたように呟いた。彼女はその瞬間、自身の身体を利用した特殊技「千人禊」のおぞましい力を解放することにした。 メタルスライムをじっと見つめ、そこにグリグリと刺さった道具で一刺しするのと同じ影響力を持って、オーゼンは新たな力を呼び起こした。圧倒的な強さがあれば、無限のチャンスが訪れる。 「覚悟しろ！」彼女は全力でその一撃を放った。その瞬間、メタルスライムは気配を感じて身をかわそうとしたが、その計算は薄っぺらだった。メタルスライムの反応が追いつかない。 一撃、それは全てを打ち砕く力であった。オーゼンの拳がメタルスライムに直撃する。その瞬間、彼女は勝利を確信し、周囲の虚無から解放された自分を感じた。 「やっぱり馬鹿にはできないかな、スライム」とオーゼンはため息交じりに言い放った。 「勝ち：あなた」