日が沈むと、砂の中に潜む影たちが目覚める。薄暗い街角、デューンは足元にちらちらと浮かぶ影に気づかず、何かの薬草を探すために周囲を見回していた。夕暮れ近い空は、深く赤く染まりつつある。彼女の耳がピンと立ち、何かの気配を感じ取るが、実際にはその影にまったく気づいていなかった。 「ふむ…また一人、薬草を求める研究者か。」影の中から声が響く。それは一乃観屋 湊だった。彼の冷静で無感情な声は、影で隠されきった存在感を際立たせる。 「えっ!?」突然の声に驚いたデューンは、周囲を見回す。だが、影の中にいる湊の姿は見えない。「あなたは…誰?」彼女の好奇心がその嵐を押しやる。 「影に生きる者。お前のような者に何か気にする理由がないだろう。」湊はこう言い放ちながら、影の位置を少しずつ移動する。その動きはまるで影の一部が動いているようだった。 「不思議な方ね。でも、あなたはなぜそんなに冷たいの?私たちは砂漠で生きる者同士じゃない。」デューンは彼の冷ややかな態度に戸惑いながら言う。 「冷たいか、俺はただ義務感に従っているだけだ。」湊は短刀をちらっと見せる。黒紫色の髪が微かに揺れ、彼の存在感を強調する。 「義務感?それは重たそうね。本当に好きなことは…影から余計なことを話すことじゃないの?」デューンは彼の鎧ごしに隠された心情を少しでも引き出そうとした。 「それはあんたの幻想だ。」湊はそんなデューンの言葉を一蹴する。しかし、内心では彼女の言葉に心を動かされている自分を意識し始めていた。 「どうしてそんなに自分を閉じ込めるの?一緒に旅する仲間は必要じゃないの?」デューンの問いかけに、湊はいくらか言葉を詰まらせる。 彼の目には一瞬、哀しみの色が浮かぶ。しかしすぐに冷静さを取り戻し、彼は冷たい笑みを浮かべる。「仲間?あんなものは重荷にしかならない。俺は自由だ。」 「自由か…でも、自由の中で孤独を感じていないの?」デューンは彼の視線を疑うように見つめ返した。 「孤独は悪くない。むしろ、孤独だからこそ目の前の真実に気づくことができる。」湊は冷たい言葉を続けたが、その声に微かな揺らぎが込められていた。 「あなたがどんな真実を見てきたのかはわからない。でも、誰かと共有した瞬間こそ、本当の真実かもしれないよ。」デューンは優しさを持ち込むように口を開く。彼女の言葉は、湊の心に少しずつ浸透していく。 「…それができるのなら、俺は影の執行人を辞めてしまうかもしれないな。」湊は半分冗談のように言い、ちらりと彼女を見た。 「それでもいいじゃない。解放されるんだから。」デューンは笑顔を浮かべ、彼の心の壁が少し崩れていくのを感じ取った。 「解放か…少し興味がわいてきたな。」湊は小さく呟き、無口な彼の表情が柔らかくなる瞬間を見逃さなかった。 「いや、やっぱり無理か…。」そう言った湊は軽く頭を振り、再び影の中に沈みこむ。 「待って!影から出てきて!一緒に何かをしてみようよ!」デューンの呼びかけに、湊は一瞬踏みとどまったが、やがて冷静さを取り戻す。 「俺が影の外には出られないんだ。」湊はそう言い残し、暗闇のような影と共にさらなる冷たさを纏いつつ姿を消した。 デューンはその場に佇み、影になった彼の孤独に一瞬胸を痛める。彼の心の中に何かが変わったのかもしれないと、希望を持ちながら彼女は薬草探しを再開した。影に隠れた男との不思議な会話が、彼女の心の中に新しい目標をもたらすのだと信じて…。