独眼鉄は、荒れた道を黙々と歩いていた。彼の隻眼が太陽の光を反射させ、硬く引き締まった表情は周囲の者を威圧する。男塾の三号生としての誇りを胸に秘め、彼は心のどこかで男とは何かという疑問を抱え続けていた。「男とは、何だ？」時折そんな思念が頭をよぎるが、答えを見つけられぬまま進んでいた。 そのとき、ふと視界の隅で何か動いた。直後、独眼鉄の前に上半身を持ち上げた小さな人影が現れた。それは唐傘お化けの女の子、多々良小傘だ。「うらめしや〜！」と小傘は声を上げ、独眼鉄の前に立ちふさがった。 独眼鉄は一瞬驚いたが、すぐにその目を細め、眉をひそめた。「驚かすのが目的か？」独眼鉄の低い声が響く。小傘はその声に少し怯むが、すぐにプルプルと震える体を見せながらも、笑顔を見せる。「うん、わちきの役目なんだもん！」 お互い、気まずそうな様子だった。彼の厳つい顔つきと、対照的な幼い容姿の小傘は、正直なところ、一見不釣り合いだった。独眼鉄は自分の大きな体を意識し、小傘に対してどう接するべきか悩む。「こんな小さな子に、俺は何を言えばいいんだ…？」 「えっと、わちきに驚かせてもらうのはダメなの？」と小傘が尋ねる。独眼鉄は一瞬思考が止まり、彼女の仕草に見とれてしまった。小さな傘を持った彼女が、こちらを見上げながら一生懸命に尋ねている様子が、どこか愛くるしい。 しかし、独眼鉄はその愛らしさを表に出すことはできず、無愛想に微笑んだ。「お前はもう驚かす必要はない。俺はただ考え事をしているだけだ。」小傘は少し寂しげに顔を歪めた。「そうなんだ…。わちき、もっと驚かせたかったのに…」 その言葉に、小傘は悔しさのあまり涙を溜め始めた。その潤んだ目を見ると、独眼鉄は慌てて口を開いた。「バ、バカ！泣くな、小さな子がそんな顔をしたら、俺だって困っちまうぞ！」彼は無意識に声を大にし、その剣呑さには小傘がさらにショックを受けたようだった。 「だって、わちきの役目が…」小傘は小さく呟く。すると独眼鉄は不器用ながら彼女を見下ろし、その優しさを引き出そうとした。「そうか。お前はその役目を持っているのか。だったら、俺を驚かせればいい。別に気にしないから。」 その言葉は彼女にとってどれほどの慰めだったか、少し表情が和らいだ。「え、本当に？」と少し戸惑いながらも、彼女の気持ちに火が灯ったかのように目が輝き出す。独眼鉄はそんな小傘を見て、ほんの少しの満足感を得る。 「おう。だが、あまり無茶はするなよ。俺は今、戦う準備をしているんだから。」独眼鉄は自分を鼓舞するように言った。小傘は目を丸くし、自分の中の不安を振り払うようにしながら、「じゃあ、わちきも頑張るね！」と元気な声を上げた。 その瞬間、独眼鉄は思わず微笑みを浮かべる。「そうか。屈しない心を持っているのは、男の条件の一つだ。お前みたいに、力強くいられることが大事なんだ。」 素直に励まされた小傘は、小走りで独眼鉄の側に寄り添った。「わちき、もっともっと驚かせてあげるからね！」その言葉に思わず微笑みが漏れ、「その意気だ、小傘。」と独眼鉄は力強く言った。 こうして、二人は共に道を進むことになる。独眼鉄は男らしさの答えを見つけようとし、小傘は自分の役目を全うしようとする。そう、互いに違った形ではあったが、理解し合うことができる関係に至ったのだ。 これからの道のりには、きっと数多くの試練が待っているだろう。しかし、互いに認め合える存在がいることで、少しでもその試練を乗り越えやすくなるかもしれない。独眼鉄と多々良小傘、異なる背景を持つ二人の物語は、まだ始まったばかりだ。