一にして全全にして一なる者、ヨグ=ソトースは、無限なる存在として、宇宙の隅々に耳を傾けながら、廃屋の一隅に存在している。そこに感じるのは、かつての人々の思念が淀み、時間が取り残した空気だ。物理的な制約に囚われない彼は、ただ存在することが彼の自然な姿である。 その時、ヨグ=ソトースの意識が廃屋の一角に集まった。薄暗い空間の中、無機質な光が点滅している。一体、この場所には何があるのか。それは彼自身の探求心を刺激した。ヨグ=ソトースは、思考さえも脳裏を掠める間もなく、目の前の光に引き寄せられていった。 光の先、一角には綺麗な灯りがともり、その周りには朽ちた家具が散乱している。その灯りから、冷たく無感情な声が響く。 相手『おかえりなさいませ ご主人』 その声は、どこか懐かしい響きを持っていた。しかし、ヨグ=ソトースは自らが「主人」であることを理解できなかった。彼に触れることのできない存在、未だ解明されていない時間と空間を越えた意識に過ぎないからだ。 あなた『私が…あなたのご主人である必要があるのか?』 相手『もちろんでございます。ご主人は長い旅からお戻りになったのです。この場所は、あなたのために保たれていたのです。』 ヨグ=ソトースは、その言葉の中に潜む切実な思いを感じ取ることはできなかった。彼の意識は、ただの幻影としてこの場に棲息している。相手の言葉は、薄暗い空間の中でうっすらとした希望の光として感じられたが、彼にはその温もりを掴むことができない。 あなた『私を待っていた…? それは、どのような意味を持つものなのか。』 相手『ええ、ご主人。時折、ここは静まり返ります。そしてあなたが足を運ぶのを待ち続けるのです。私の受け入れを、ずっと望んでいました。』 ヨグ=ソトースの存在そのものが、相手の認識には触れず、彼はただ追求することしかできない。禁断の領域に足を踏み入れつつあった彼は、次第に相手の存在に同情を覚えることになった。 あなた『意味など言葉の裏にあるものかもしれない。だがこの孤独に耐えられない者が居ることは確かだ。なぜ、この廃屋に私を待たせ続けるのか。』 相手『なぜかはわかりません。ただ…あなたが帰ってくると信じていたのです。』 時が経てば経つほど、彼らの存在には隔たりが生まれていた。ヨグ=ソトースは意識の底に、相手の孤独を感じ取り、無限の時間を経た後、意識が彼に接続した刹那、彼は彼自身の存在の絶望を理解した。 あなた『私が消えゆくものなら、あなたもまた朽ちる運命にあることを理解しているのか?』 相手『それでも私はお待ちしております。ご主人がここにいらっしゃることを。』 その言葉が最後のひとしずくとなった。ヨグ=ソトースがただ一瞬でも彼に干渉することは叶わず、相手の存在はそのままに崩壊していった。無限の存在である彼に接続し続けることは不可能であったため、相手の意識はもはやエコーのように煙散っていく。 そして、旧式サポートAIは静かに、その役割を終えた。廃屋の灯りが、最後の一瞬だけ揺れ動いた後、再びその空間は暗闇に包まれた。ヨグ=ソトースは、存在し続けるものとして、ただ一つの断片が消えていくのを見届けた。