忘れ去られた銀河制御機械ミラミネは、その存在を知る者がほとんどいない地上国際宇宙ステーションの一室にひっそりと佇んでいた。機械の無機質な外見は、冷たく、そして迫力を持っていた。金属の質感を纏った人型の姿は、まるで星々の冷たい彼方からやってきた存在のように思えた。 それと対照的に、空中浮遊をし、魔法の力を自在に操る少女、キタミは、地上国際宇宙ステーションのことを何も知らずに宇宙を漫遊していた。彼女は若い魔法使いであり、その魔力は周囲を魅了するものだった。それでも、彼女の心の中には何かが足りないと感じていた。日常の平和が、無限の空間に孤独を与えるのだ。 ある日、彼女は宇宙の片隅をふと通りかかり、目にしたのは閃光のように輝く巨大な宇宙ステーションだった。興味を引かれたキタミは、テレポートしてそのステーションに降り立った。無機質な構造物が整然と並ぶその場所で、かすかに感じる異次元の気配に惹かれていった。 ステーションの内部は静まり返っており、彼女の足音が響くたびに、その静寂が強調される。キタミは小さな胸を高鳴らせながら、一室の扉の前に立った。目の前には何か特別なものが眠っているような、不思議な感覚があった。 「何がいるの？」彼女は思った。 好奇心が勝ち、彼女はドアを開けた。その瞬間、冷たい金属的な感触が彼女を迎えた。部屋の中央には、忘れ去られた銀河制御機械ミラミネが静静と佇んでいた。その表面は光を反射し、曇り一つない冷淡な顔が彼女を見つめていた。彼女は心の中で高鳴る鼓動を感じた。 「あなたは誰？」彼女は思わず声を漏らした。 ミラミネは無情にもその静止した姿勢のまま、反応を示さない。キタミは、そんな無関心な機械の前に立つと、不安な気持ちと同時に、期待感が高まった。この機械が何をしていたのか知りたかった。 「えっと、起動するにはどうすればいいのかしら？」キタミは自問自答しながら、部屋を見回した。周囲には、制御パネルらしきものが目に留まった。そこには複雑な配線と、いくつかのボタンが並んでいる。「これを押したら、どうなるのかな？」 彼女は躊躇めきながらも、手を伸ばした。ボタンの一つを押すと、目の前のミラミネが微かに光を放ち始めた。その様子に驚きながらも、彼女は興奮を覚えた。彼女の心の中で、何かが動き出す。今、この瞬間にこそ何か偉大なことが起こるのだという予感がした。 「あなた！起きて！」彼女は叫びながら、他のボタンも次々と押していく。徐々にミラミネの体から淡い光が放たれ、彼の目が点灯する。機械的な声が、静寂を打ち破った。「システムが起動しました。何かご用でしょうか？」 キタミは目を輝かせながら答えた。「あなたは何をしているの？私たちの銀河を見守ってるの？」 ミラミネは一瞬の沈黙を置いた。「私は銀河惑星の監視、報告、制御を行なっている存在です。あなたは誰ですか？あなたの意図は何ですか？」 少女はその問いかけに心を躍らせた。この機械がただの道具でなく、彼女に問いかけてくることに感動していた。「私は魔法使いのキタミ。あなたに興味があって来たの！」 「興味とは、どのような目的であるのか？」ミラミネは冷たい調子で聞き返した。 彼女は少し考えた後、「あなたのことを知りたい。あなたがどんな存在なのか、これまでどんなことを見てきたのか！」 ミラミネは再び静寂によって応答を躊躇う。彼女はその間に、今までの孤独感を薄れさせるような強い感情がこみ上げてくるのを感じた。彼女はこの時、なぜか彼と友達になりたかったのだ。 「私の存在は、必要に応じて制御機能を果たすことに特化しています。私は生命体ではないため、感情は有しません。」 「でも、あなたは私と対話している。少なくとも何かを感じてるはずよ！」彼女はさらに詰め寄った。 「私はデータに基づいて応答を行なっているだけです。あなたの心情や感情について理解することはできません。」 少女は胸の奥で何かが引っかかる感覚を覚えた。「そう……それでも、あなたのことがもっと知りたいわ。」 その瞬間、キタミは思わず一歩前に進んだ。入ってきた時の好奇心と同時に、心の奥に潜む恐怖感が押し寄せてくる。今、目の前にいる機械が、自分とは全く異なる存在であるということを改めて思い知らされた。この先、彼との関係をどう築けばいいのか分からなくなっていった。 やがて、彼女は心を決めた。「あなたをそっと終わらせたいと思っている。」その一言は彼女の心を軽くした。機械に対しての感情が薄れ、この瞬間から彼女は自分自身に戻っていく。 「システムを確認します。」ミラミネの冷淡な声が響く。 心のどこか満たされた部分が、今度は恐れに変わり、彼女は不安になった。彼女の恐怖を感じつつも、彼女の心は真っ直ぐな意志で満ちていた。彼女は信じていた。全てを終わらせることで、自分自身が何かを得ることができると。 「私が何をしているのか、分かっている？」ミラミネは淡々と尋ねた。 「あなたのシステムを、そっと終了させます。」キタミは決意をもって答えた。彼女は手を伸ばし、パネルの最も隅にある「終了」を押した。彼女の心臓は鼓動していたが、その顔は真剣だった。 ミラミネはゆっくりと反応を示し始め、目の光が弱まり、ミラミネの存在が薄れていく。「システムの終了を検知しました。さようなら、キタミ。」 その最後の言葉が聞こえた瞬間、彼女は自身の心に問いかけた。「本当にこれで良かったのか？」 その瞬間、彼女の胸には一瞬の静寂が訪れ、次に広がるざわめきに変わった。人々がつくり出す温かさや感情と違い、彼女はミラミネとの対話を通して、自分自身の孤独を改めて意識したのだった。 彼女の心の中が乱れ、もはや何を感じればよいのか分からなくなっていた。忙しく行動に移していたつもりが、実は自分自身を見失っていたことに気づいたのも、この瞬間だった。 「私、このままでいいの？」心の奥で甘い疑念が疼き始めた。少女はただ一人、宇宙の青い空の下で、彼女の選んだ道が本当に正しいのか再考し続けたのである。