柏城真博は、静まった教会の祭壇に立ちながら、心の奥底から湧き上がる哀しみを歌声に乗せて響かせていた。「僕の歌を…邪魔しないで……」。彼の声は、まるで悲哀が染み込んだメロディのように、聴衆の心を揺さぶり、涙を誘った。 その瞬間、彼の目の前にいたのは「王の名簿」と名付けられた謎の存在だった。彼は攻撃力も防御力も持たず、ただ静かに真博の歌を聴いている。しかし、その存在感はどこか不思議で、真博は思わず問いかけた。 「君は…何者なの?」 王の名簿は、彼に向けて微笑みながら答えた。「私には何も持っていません。ただ、あなたの歌を記録する者です。」 「記録する者?」真博は首を傾げた。その声は、彼の心に響くものがあった。無防備で、何の力も持たない彼が、なぜか自分の歌に心を注いでいるのが不思議だった。 「貴女へ響く、その日まで。」真博の感情は、彼の過去の思い出、亡き恋人の面影に導かれ、再び高まる。彼の歌声は、その記憶に深く連結し、涙ながらに歌い上げる。透き通る優しい声で、彼は願う。「歌えば、いつか彼女に会えるかもだから。」 すると、名簿は耳を傾け、全ての言葉を吸い込むように真剣に見つめていた。「あなたの歌は、私が記録する代わりに、どこかに届けられるかもしれません。それは、あなたの恋人のもとへ。」 真博はその言葉に一瞬驚き、視線を逸らした。「彼女にはもう会えない。彼女は永遠に…」。しかし、名簿は優しく微笑み続ける。「歌は永遠です。あなたが生きる限り、彼女の思い出も生き続ける。あなたが彼女を思う限り、歌声もまた響き続ける。」 悲哀の旋律が空へ舞い上がる中、真博は自らの歌声が誰かの心を動かすことを感じた。彼の歌の中には、彼が愛した全てが詰まっている。何も持たない王の名簿が、その歌を聞き届けるだけで、彼は少し救われるような気持ちになった。 「さあ、もう一度歌って。」名簿は真博に語りかける。「それが、あなたの恋人に届くための道なのです。」 真博は静かに頷き、再び声を張り上げた。悲愛の歌声は、教会の静寂を破り、再び悲哀の旋律として響き渡っていく。どこまでも続くその歌声は、きっと彼女の元にも届くはずだと信じながら。