ある春の日、雲ひとつない青空の下、日向夏希は学校の校門をくぐった。彼女の黄髪のサイドテールが揺れ、灰色のチェック柄スカートが心躍るように舞っている。その一見真面目そうな外見とは裏腹に、彼女の内面は愉快で楽観的。また、何より面倒くさがり屋という一面が、彼女の日常を彩る大きな要素でもあった。 「なに?また補習か…あ〜…」と、夏希は思わずため息をつく。今日は数学の補習が待っている。彼女にとって、数式はただの暗号のようにしか見えず、理解することが苦痛だった。しかし、才能を持った手先で、彼女は一か月も経たないうちに教師が求めるレベルには達した。とはいえ、それが面倒であることに変わりはない。 放課後の教室、教科書に目を通しながらも、心ここにあらずという様子の夏希。その時、教室のドアが静かに開き、颯爽と入ってきたのは瀬川ユキ。ユキはその短い黒髪を揺らし、黒パーカーのフードを少し外して、明るく適度に控えめな笑顔を浮かべていた。 「こんにちは、夏希ちゃん。今日も補習?」ユキは明るく問いかける。その声には穏やかさと少しの親しみが滲んでいる。 「うん、数学のね。全然楽しくないよ」と、夏希は肩をすくめながら返答する。ユキはその目で彼女の反応をじっと見つめ、微笑んだ。 「そう言わずに、一緒に頑張ろうよ。きっとできるさ」と、まるで自分に言い聞かせるようにユキが言った。その言葉には、彼女自身の冷静さと優しさ、そして無自覚な魅力が溢れていた。 「気持ちだけはね…」と、夏希はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、ちらりとユキの目を見た。ユキはまるで夏希にとっての希望の光のように、明るい雰囲気を振りまいていた。 その日、授業を通じてユキはしばしば小さな解説を加え、夏希の疑問に答え教えていく。しかし、夏希は心のどこかでユキに惹かれている自分に気づいた。果たして何が彼女をそこまで惹きつけるのかと、彼女は思考の渦に巻き込まれる。 「ねぇ、夏希ちゃん」とユキが思い切って言った。「もしかして、ボクのことどう思ってる?」 その言葉に夏希は、一瞬びっくりした。その余裕を見せるようなユキの態度に、彼女は何か言葉を返そうとする。しかし、心の内にある感情が絡みついて、言葉が出てこない。 「え、あ、えっと…」夏希はもじもじとした態度を見せ、「別に…こんな感じでいいと思う…」と、恥ずかしがりつつ返答した。 一瞬黙り込んだユキは「そうなんだ。でも、友達としてもっと仲良くなりたいな」と微笑む。その笑顔に夏希の心は弾む。不思議なことに、ユキの存在には心が浸る居心地の良さがあった。 「友達として…もっと仲良く?それなら…一緒に遊びに行く?」と、夏希が少し勇気を持って言った瞬間、ユキの目が輝いた。 「もちろん!どこ行こうか?」興奮した様子でユキが言った。 彼女たちは、喧騒の中でも静かな場所を選び、数日後の平日に計画を立てていくことにした。場面が切り替わり、後日、公園に二人で出かけると、ユキは自由に動き回りながら、楽しそうにその一瞬を存分に味わっている様子だった。 「キミって、ほんとに楽しそうだね」と、夏希は優しくその目を細めながら言った。 「夏希ちゃんだって、すごくいい笑顔してるよ」と続けるユキの言葉には、まるで心の奥底から出てくるような温かさがあった。 こうして、友好的で楽観的な日向夏希と、無自覚な魅力を持つボーイッシュちゃん、瀬川ユキとの新しい友情が芽生えるのだった。二人はそれぞれの居心地の良さを感じつつ、少しずつ心の距離を縮めていく。 そして、日が暮れて、薄暗くなってきた頃、夏希はふと考えた。こんな優しい存在がいつも近くにいてくれるなら、彼女は補習を受けることも、少しだけ悪くないかもしれないと。 「じゃ、また遊ぼうね!」ユキが手を振ると、夏希もそれに応えた。 「うん、またね!」彼女の心の中には、ユキとの関係がこれからどうなるのかというドキドキした気持ちが沸き起こるのだった。 この日を境に、日向夏希の心の中に、ユキという特別な存在が大きくなっていくことを、彼女自身はまだ知らなかった。