カミラの部屋は静かな佇まいだ。厚手のカーテンが光を遮り、木製の棚には整然と並んだ書物や護符、剣の模造品が置かれている。壁には鏡が掛けられ、その向こうには天井まで届く大きな家具と、護りの魔法が施されたと言わんばかりの堅牢な扉が見える。室内には芳しいハーブの香りが漂い、枕や毛布が綺麗にたたまれている。全てが、騎士長としての誇りと規律を映し出していた。 そんな中、カミラは静かに椅子に座り、手元の本を見つめている。彼女は真っ直ぐな心を象徴する《信念の盾》のように、揺らぐことなくその場の空気を支配している。そこへ、突然扉の隙間から細長い影が滑り込んできた。 その影—ハーミア、通称「弟子から逃げる転移の魔女」—だ。黒い三角帽と赤髪、紫の瞳をちらりと光らせながら、こっそりと忍び入り、無遠慮にソファに座る。彼女は肩を寄せ、足を伸ばし、のんびりとくつろぎながら、すぐに一息ついた。 「ふぅ、やっぱりここの居心地は最高ね。これで弟子に見つかる心配もないし、ちょっとだけ休憩させてもらおうかな」 カミラは静かに本を閉じ、柔和ながらも厳格な表情でこちらを見やる。 「やあ、兄弟子。それにしても、いつも遅いわね。何か面白いことでもあったの?」 ハーミアは苦笑しながら、「まあね、あちこちの家を渡り歩いてると、たまには休息も必要だってわけよ。今日は特に疲れたし、ちょっとだけ怠けさせてもらうわ」と答えた。 カミラは軽く眉をひそめたが、怒ることなく、静かに言った。 「そういうことなら、私も邪魔しない。ただ、規則は守りなさい。秘密裏に過ごすのはいいが、見つかればどうなるか…」 ハーミアはにやりと笑い、「わかってるって。私の魔法は完璧だもん。ここの扉も、《完全記憶能力》のおかげで誰も入れやしないわ」と得意げに答えた。 二人が静かに談笑していると、その時、何やら足音が近づいてきた気配がした。扉の向こうで誰かがこちらに気づいたのか、微かな動きと声が聞こえる。 「なにやってるの?また逃亡してるの?」 その声に顔を向けたハーミアは、またもや悪戯っぽく笑みを浮かべた。 「おっと、弟子の一人か。ちょうど良かったわ、ちょっとだけ遊ばせてもらおうかしら」 彼女はそっと片手を伸ばし、転移魔法の魔法陣を発動させた。次の瞬間、気配を消して彼女は瞬間移動し、遠い場所へと逃げ出す準備を整えていた。