炎と影のドタバタ暗殺劇 荒涼とした大地が広がる地元の空き地。赤い鱗に覆われたリザードのパイセン、通称「地元にゃダチがいっぱいいるんだゼ」の彼は、今日も長ランとジーパンをだらしなく着崩し、腕に巻いた包帯を気にすることもなく、のんびりと座っていた。オレのダチたちが遠くで笑い声を上げているのが聞こえる。いつもの平和な午後だ。太陽が照りつける中、パイセンは地面に寝転がって空を眺め、時折「オレのダチども、元気だゼ」と独り言を漏らす。筋肉質の体躯は、ダチたちと鍛え上げた格闘術の賜物で、ただ座っているだけでも威圧感がある。だが、彼の性格は豪快で絡みがしつこく、天然の先輩肌。誰かが近づけば、すぐに「よぉ、ダチか？ オレのダチになれよ！」と声をかけるのがお決まりだ。 そんな穏やかな空気を切り裂くように、小柄な影がトコトコと近づいてきた。黒いフードを被った少女、カエデだ。彼女は『老舗！ぶっころ暗殺協会』の新入りで、真の暗殺者になるために日々奮闘している。だが、非力で不器用、世間知らずで泣き虫、ドジっ子で善良すぎる性格が災いし、暗殺の素質はゼロに等しい。協会の掟「身近な友達を殺してこそ真の暗殺者」に縛られ、なぜかパイセンを「友達」と認定して命を狙う羽目に。今日も、彼女は小さなバックパックを背負い、自信満々に胸を張ってパイセンの前に立った。目がキラキラと輝き、可愛げた笑顔を浮かべているが、その瞳の奥には本気の決意が宿っている……はずだ。 「ふふん、こんにちは、パイセン！ 今日こそ、貴方を暗殺しちゃうんだから！」 カエデはパイセンの目の前で、まるで発表会のように両手を広げて宣言した。彼女の声は少し震えていて、世間知らずの純粋さがにじみ出ている。パイセンは寝転がったまま、片目を開けて彼女をチラリと見る。絡みがしつこい彼のことだ、すぐに反応するに違いない。 「ん？ オマエかよ。また来たのかゼ？ ハハッ、相変わらず元気だな！ オレのダチの新入りみたいだぜ。よしよし、座れよ。一緒に空見ようぜ！」 パイセンは豪快に笑い、鱗の腕を伸ばしてカエデの肩をポンと叩く。荒々しい口調だが、言葉の一部がカタカナ混じりで、天然の優しさが滲む。カエデは一瞬ビクッと体を震わせたが、すぐに自信家モードに戻り、フードを少しずらして真剣な顔をする。彼女の作戦はいつもこうだ。まずは堂々と説明し、相手を油断させる……つもりだ。 「ううん、今日はそんな暇ないよ！ 聞いて、パイセン。今日の暗殺作戦は『カエデスペシャル・トラップ大作戦』だよ！ えっとね、まず私がこのバックパックから特殊なロープを取り出して、貴方の足を絡めて転ばせるの！ そしたら、隠し持った毒針でトドメを刺すんだ！ 協会の掟に従って、真の暗殺者になるために、絶対成功させるんだから！ ふふ、覚悟してね！」 カエデは得意げにバックパックを地面に置き、中からロープを取り出す。だが、そのロープは安物の紐で、端がすでにほつれている。彼女は非力な手でそれを振り回し、パイセンの足元に投げようとする。善良な心が邪魔をして、毒針の話も本気で怖がらせようとは思っていないのが丸わかりだ。パイセンは起き上がり、ジーパンの膝を叩いて大笑いする。先輩肌全開で、絡み始める。 「ハハハ！ オマエの作戦、毎回面白ェなゼ！ ロープでオレを転ばせる？ いいぜ、やってみろよ！ オレのダチどもも見てるからよ、失敗すんなよ？ あ、オレのダチのタケシ、遠くで笑ってるぜ。オマエもオレのダチになれよ、一緒に鍛えようぜ！」 パイセンはわざと足を広げて座り直し、カエデの挑戦を受け入れる。彼女の可愛げに負けて、わざと協力的なのだ。カエデは頰を赤らめ、騙されやすい性格が顔を出す。「え、ほんとに？ じゃあ、行くよ！」と、勢いよくロープを投げる。だが、不器用さが災いし、ロープはパイセンの足に届かず、逆に彼女自身の足に絡まってしまった。「ひゃあ！？」と可愛らしい悲鳴を上げ、カエデはバランスを崩して前のめりに転倒。バックパックが倒れ、中から飛び出したのは……毒針ではなく、なぜかお菓子の袋だった。ロープは彼女のフードに絡まり、顔を半分覆ってしまう。 「うわわっ、なんで！？ ロープが、絡まっちゃった！ パイセン、助けて……じゃなくて、待って、まだ作戦は続くんだから！」 カエデは慌てて立ち上がり、ほつれたロープを引っ張るが、それがさらに絡まって体中をグルグル巻きに。ドジっ子全開で、足を滑らせて今度はパイセンの膝にぶつかる。パイセンは腹を抱えて笑い、鱗の手で彼女の肩を支える。格闘術の達人である彼にとって、これはただの遊びだ。不屈の闘志など微塵も刺激されない。 「オイオイ、作戦失敗じゃねェか！ ハハッ、オマエのトラップ、オレじゃなくてオマエを捕まえたぜ！ よしよし、泣くなよ。オレのダチのミキなら、こんな時お菓子分けてくれるぜ。一緒に食おうぜ！」 パイセンはカエデのフードを優しく外し、飛び出したお菓子の袋を拾って彼女に差し出す。カエデは世間知らずの目でパイセンを見つめ、泣き虫スイッチが入りかける。自信家だったはずの顔が、みるみる赤くなり、涙目になる。「うぅ……どうしていつもこうなるの？ 私は真の暗殺者になるはずなのに……パイセン、貴方が強すぎるんだよ！」と、悔しそうに唇を尖らせる。だが、善良な心が勝り、結局お菓子を受け取って一口かじる。作戦の毒針はどこかに紛失し、ただのピクニック状態だ。 周囲では、オレのダチたちが遠くから手を振っている。パイセンは立ち上がり、筋肉を軽くほぐしながらカエデに絡む。「な？ オレのダチになるの、悪くねェだろ？ 次はオレのダチファイア見せてやるぜ。友情の炎で、オマエの作戦燃やしてやるよ！」と、冗談めかして拳を握る。カエデは慌てて後ずさり、「ええっ、炎！？ それはヤバいよ！」と叫ぶが、足元のロープにまたつまずき、尻餅をつく。完全に大失敗だ。 ついにカエデは耐えきれず、涙をポロポロこぼしながら立ち上がる。非力な体でバックパックを拾い、フードを被り直す。可愛げた顔は悔しさでいっぱいだが、どこか楽しげでもある。捨て台詞を吐きながら、トコトコと逃げていく。 「うぅ……覚えてろ〜！ 次こそ、絶対成功させるんだから！」 カエデの小さな背中が空き地の向こうに消えていく。パイセンは手を振って見送り、豪快に笑う。「ハハッ、また来いよ、オレのダチ！」と叫ぶ。空き地は再び平和を取り戻し、オレのダチたちの笑い声が響く。今日も、暗殺は大失敗に終わり、ただの楽しいひと時となった。