

年末の贈り物 魔女学校の寮は、冬の訪れを告げる冷たい風に包まれていた。12月31日、年末の夜。外では雪が静かに降り積もり、校舎の窓辺に白い結晶を刻んでいる。利根崎白香は、自分の小さな部屋で膝を抱えていた。白いブラウスに黒いローブを羽織り、魔女風の帽子を深くかぶって猫耳を隠している。尻尾もローブの裾に押し込め、誰にも見せまいと必死だ。彼女は魔法少女の見習いとして入学したばかりの学生。純粋無垢だが、極度の恥ずかしがり屋で、人と話すだけで顔を赤らめてしまう。 「ふにゃ……眠いよ……」 白香は小さな欠伸を漏らし、ベッドに転がった。今日も授業が長引いて疲れ果て、真っ昼間からうたた寝しがちだった体が、夜の静けさに負ける。黒い首輪が首元でかすかに光り、彼女の訳ありな過去を物語るように丁寧に手入れされている。好きな焼き魚の匂いが、部屋の隅に置かれたお皿から漂う。嫌いな柑橘系のものは、絶対に近寄らせない。今日の夕食は、ようやく手に入れた干物を少しだけつまんだだけだ。 学校は年末の休暇に入り、ほとんどの生徒が帰省していた。白香は一人残り、魔法の勉強に没頭しようとしたが、眠気が勝る。目を閉じると、夢うつつの中でクリスマスの歌が聞こえてくる。地球の風習だ。最近、学校で話題になったイベント。白香はそんなものに興味はない。ただ、静かに年を越せればそれでいい。 突然、部屋の暖炉がパチパチと音を立て、赤い光が広がった。白香の猫耳がビクッと反応し、帽子から少し飛び出しそうになる。「んぅ……?」彼女は慌てて帽子を押さえ、目をこする。暖炉の中から、ふわりと甘い香りが漂ってきた。ミルクとスパイスのような、温かな匂い。 「ふふ、こんな夜更けに一人でいるなんて、可哀想に。欲しい物は何かしら? あなたの慈母、イシスに何でもお願いして頂戴!」 柔らかな声が響き、暖炉から優雅に姿を現したのは、絶世の美女だった。赤いサンタの衣装を纏い、豊かな胸元がふくよかに揺れる。金色の髪が雪のように輝き、青い瞳は母なる海のように穏やか。豊饒神イシスは、最近知った地球のクリスマスに夢中になっていた。太陽神が気に入っているこのイベントを、真似事で楽しもうと、夜な夜な世界を飛び回っているのだ。彼女の性格は誰にでも超優しい。相手を甘やかしたいという母性が、時として度を越す。 白香は飛び起き、ベッドの端に縮こまった。尻尾がローブの下でピクピクと動き、心の動揺を隠せない。「ふ、ふにゃ……だ、誰……? いきなり入ってきて……んぅ、怖いよ……」控えめな声が震える。彼女は他人を信用しない。コミュ障気味で、こんな夜に知らない美女が現れるなんて、魔法のトラブルかと思った。 イシスは優しく微笑み、部屋に近づく。彼女の足音は雪のように軽やかだ。「まあ、可愛らしい子猫ちゃんね。私はイシス、豊饒の女神よ。クリスマス……いえ、年末の贈り物を届けるサンタの真似事。あなたのような純粋な子が一人でいるなんて、放っておけないわ。さあ、何が欲しい? お腹が空いているの? それとも、温かな毛布? 慈母に甘えておくれ。」 白香の頰が赤くなる。猫耳が帽子の中でわずかに傾き、警戒心が強い。「い、いいよ……一人で大丈夫……眠いだけ……すぅ……」彼女は目を伏せ、首輪を指でいじくる。イシスの優しさが、逆に圧倒的だ。こんなに甘やかされることに慣れていない。だが、イシスの声は安心感を与え、徐々に白香の心を溶かす。信用した相手には警戒心が緩む性分。少しずつ、肩の力が抜けていく。 「ふふ、眠いならなおさらよ。見てごらんなさい、私の贈り物!」イシスは手を振ると、部屋が一瞬で変わった。暖炉の火が明るくなり、テーブルの上には山のような焼き魚が現れる。干物、焼き鮭、鯖の塩焼き……白香の好きな物ばかりだ。量は尋常じゃない。テーブルが軋み、床にまで溢れそう。「これで満足? もっと欲しい? 慈母はいつでも与えるわよ。」 白香の目が丸くなる。「ふにゃっ!? こ、これ……私の好きな焼き魚……どうして知ってるの……?」尻尾が興奮でブンブン揺れ、ローブの裾から飛び出しそう。彼女は慌てて押さえ、恥ずかしさに顔を覆う。こんなに過剰な量、想像もしていなかった。嬉しいはずなのに、部屋が魚の匂いで充満し、圧倒される。「んぅ……多すぎて……困るよ……」 イシスは満足げに頷き、次なる贈り物を準備する。お節介焼きな彼女は、一つで終わらない。「困る? なら、もっと助けてあげるわ。あなた、寒そうね。このローブの下で、耳と尻尾を隠しているの? 可愛いのに、もったいないわ。」彼女の魔力が部屋を包み、白香の帽子がふわりと浮かぶ。猫耳が露わになり、ピンク色に染まる。 「ひゃっ!? だ、だめぇ……見ないで……ふにゃあ……」白香はベッドに突っ伏し、耳を塞ぐ。最大の弱点を見られた恥ずかしさで、体が震える。猫耳と尻尾は感情に連動し、パニックで激しく揺れる。イシスはそんな白香を見て、母性本能が爆発。「まあ、なんて愛らしいの! 隠さないでいいのよ。慈母が守ってあげるから。」彼女は白香を抱き寄せ、豊かな胸に顔を埋めるようにする。温かく、ミルクのような香りが白香を包む。 白香の心が揺らぐ。恥ずかしいのに、安心する。信用が芽生え、警戒心が溶ける。「ん……温かい……でも、みんなに見られたら……嫌だよ……」控えめな声で呟く。イシスは優しく撫でる。「心配ないわ。私の魔法で、誰も見えないようにする。でも、もっと甘えていいんですよ。年末の一人ぼっちなんて、許さないわ。」 しかし、イシスの度が過ぎる。お節介が加速し、次は部屋全体に毛布の山を出現させる。白香のベッドが埋まり、彼女は魚の山と毛布の海に沈む。「ふ、ふにゃ……これも多すぎ……動けないよ……」寝相の悪い白香は、うたた寝しそうになりながらも、困り果てる。イシスはさらに、温かなミルクのプールを部屋の隅に作り出す。「飲んで、元気を出して! 慈母の愛よ。」 白香の態度が徐々に変わる。最初は恥ずかしがって控えめだったが、イシスの甘やかしに甘え始め、しかし過剰さに鬱陶しさを感じる。「イシスさん……ありがとう、でも……ちょっと、うるさいかも……眠いのに……」尻尾が疲れたように垂れ、猫耳がぴくぴくする。年末の静かな夜が、突然のプレゼント洪水でトラブルに。魚が床に落ち、毛布が絡まり、白香は転げ回る。「んぅっ! 助けて……これ、片付けられないよぉ……」 イシスは目を輝かせ、「もっと? なら、魔法の召使いを呼んで片付けるわ!」と手を叩くが、白香は慌てて止める。「い、いいの! 一人で……ふにゃ、静かに年越ししたいだけ……」彼女の純粋な願いが、イシスの母性と衝突。部屋はカオスだ。雪の外で除夜の鐘が鳴り始め、年末の時が迫る。 ようやくイシスは気づく。「あら、あなたの欲しいものは、静かな時間だったのね。慈母は少し張り切りすぎたかしら。」彼女は優しく笑い、魔力で部屋を元に戻す。魚は適度な量に減り、毛布はベッドに整う。白香の猫耳を優しく撫で、「ごめんなさいね。でも、楽しかったわ。また来るわよ。」 白香は頰を赤らめ、控えめに頷く。「うん……ありがとう、イシスさん。少し、嬉しかったよ……すぅ……」眠気に負け、彼女は毛布にくるまる。尻尾が穏やかに揺れ、警戒心が完全に解けた。イシスは満足し、次の誰かを求めて暖炉に戻る。「良いお年を、可愛い子猫ちゃん。」 部屋に静けさが戻り、白香は微笑む。年末のトラブルは、意外な温かさを残した。外の雪が、新たな年を祝福するように降り続ける。 (約1800字)