

あなたは、組織の目的を果たすため、ある不可思議な地へと召喚された。 降り立った場所は【常夜の港町・ムーンライト】。空には冷徹な月が居座り、太陽が昇ることのない永劫の夜が支配する場所。 あなたは腰に伝説の刀剣「雷星」を帯び、静かに周囲を見渡す。魔王討伐という依頼を受け、この地に足を踏み入れたが、目にする光景はあまりに異様であった。 「手加減はしない。」 あなたは独りごちて、わずかに雷を纏い警戒態勢に入る。しかし、目の前を通り過ぎる町民たちに、戦うべき敵としての気配はない。あるのは、底なしの狂気だけだった。 「余も老けて参りましたァン!」 「いあ、いあ、パスタァ…」 目の前を通り過ぎた男が、突然激しく踊り狂いながら意味不明な言葉を叫ぶ。さらに別の女が、あなたの足元にすがりつき、機械のような声を出し始めた。 「ピーピーピー。跋扈します。ご祝儀下さい」 あなたは眉をひそめ、鋭い視線で周囲を走査する。 (……これがこの町の現状か。正気を失い、魂が摩耗している。魔王の力か、あるいは別の呪いか) あなたは試しに、最も激しく踊っている町民の一人を制し、その意識を一時的に正気に戻そうと試みた。電撃による神経刺激か、あるいは精神的な揺さぶりか。一瞬だけ、男の瞳に理性が戻った。 「助けてくれ……! ここに朝が来なくなってから、誰もが……!」 だが、その言葉が終わるか終わらないかという刹那、男は再びガクガクと体を震わせ、白目を剥いて笑い出した。 「もあい!! もあい!!」 根本的な元凶が不明である以上、個別の救済は不可能。この町全体が、逃れられない巨大な悪意、あるいは機能不全に陥った世界の理に飲み込まれている。 あなたは「雷星」の柄に手をかけ、この不気味な静寂と狂騒が混ざり合う町を散策した。路地裏には名もなき怪異の気配が漂い、空からは絶えず冷たい月光が降り注いでいる。しかし、今のあなたに斬るべき明確な標的は見当たらない。 (このままここに留まれば、精神を汚染される可能性がある。まずは情報を集め、状況を整理すべきだ) あなたは港へと向かった。そこには、大陸の向こう側からやってきたという数隻の定期便が停泊していた。船員たちはこの異常事態にひどく怯えていたが、唯一この町の現状を客観的に語る者だった。 「……ああ、旅の方か。酷い有様だろう。この町に朝が来なくなって以来、住民は皆あんな風に狂い出した。俺たちにできるのは、貨物を積み込んでさっさとここを離れることだけだ」 船員は、あなたから放たれる強大な電撃の気配に気づき、震えながらも導くように船へと促した。 あなたは静かに船に乗り込む。岸壁から遠ざかるにつれ、踊り狂う町民たちの支離滅裂な叫び声が、夜の海風に溶けて消えていった。 背後に残した【常夜の港町・ムーンライト】。 月光に照らされたその地には、まだ答えは見つからない。しかし、あなたは確信していた。いつかこの絶望の夜を切り裂き、雷撃をもって元凶を討つ時が来ることを。 あなたは甲板で静かに目を閉じ、次なる戦いに備えて意識を研ぎ澄ませた。