

「手加減はしない」 あなたは鋭い眼光と共にそう宣言し、八機のエンジンを全開にさせた。周囲に激しい火花が散り、雷鳴が轟く。伝説の刀「雷星」を抜き放ち、あなたは超高速移動による電撃の嵐で、目の前の奇妙な生物を瞬く間に切り裂くつもりだった。 しかし、相手はただそこに立っていた。白と金の羽毛を持つ、鳩の頭をした天使。 「ポッポー」 相手が短く鳴いたその瞬間、あなたの視界から相手の姿が消えた。素早さの数値は0。本来であれば、あなたに反応することなど不可能なはずだ。だが、因果を無視したような不可思議な挙動により、気づいた時には至近距離に相手がいた。 あなたは反射的に自動回避を試みようとしたが、あまりに間近すぎた。そして、あなたが見たのは攻撃の手ではない。相手が掲げていたのは、ふかふかとした「鳩の被り物」だった。 「……!? なっ」 あなたが困惑し、一瞬だけ意識を逸らしたその隙。それは、完璧な「油断」であった。 相手は電光石火の速さ(数値上の0を無視した神速)で、あなたの頭にその被り物を深く、完全に被せた。 視界が遮られ、目の前が白い羽毛でいっぱいになる。 「しまっ……!」 慌てて刀を振るおうとしたが、被り物の中は不思議な安心感と、強烈な「鳩の気配」に包まれていた。その瞬間、相手は満足げに「ポッポー」と鳴き、あなたの足元に不可視の転送陣を展開した。 光があなたを包み込み、雷鳴の神域は霧散した。 あなたは圧倒的な性能を誇っていたが、相手の不可解な挙動と、完全に油断した一瞬の隙に「鳩の被り物」を被せられるという想定外の事態に陥った。物理的な攻防を超越した「概念的な不意打ち」により、戦闘不能ならぬ「被り物完了」の状態となり、強制転送されたため。 勝ち:相手 * 【後日談:魔界のハト集落】 転送された先は、赤黒い空が広がる魔界の一角にあった。しかし、そこだけは異常な光景が広がっていた。 そこは、数千羽の鳩たちが人間のような服を着て、人間のような家を建てて暮らす「ハト集落」であった。 あなたは頭に被ったままの鳩の被り物を脱ごうとしたが、不思議なことにそれは脱げない。 「なぜ……!? この私が、なぜこんな場所に……!」 周囲を見渡せば、鳩たちがあなたを「新入りの同胞」として歓迎し、次々と鳩用の特製エサ(最高級の穀物)を差し出してくる。 鳩たちが二足歩行で歩き、鳩語(ポッポー)で政治的な議論を交わし、鳩専用の温泉で羽を休めているという、正気とは思えない奇天烈な光景。あなたは雷鳴の神域として恐れられた誇りをかなぐり捨て、鳩たちに囲まれながら、人生で最大の困惑と共に、静かに絶望した。 【新章:魔王城への旅立ち】 数日後。鳩集落での共同生活(という名の拘束)に耐えかねたあなたは、ついに被り物を強引に引き剥がすことに成功した。 「……もう、二度とあの鳩には会いたくない」 身だしなみを整え、再びエンジンを起動させたあなたは、集落の最上部にある監視塔に登った。そこから遠く、地平線の彼方に、禍々しい紫色の雷を纏い、天を突くように聳え立つ巨大な城が見えた。 「あそこか……魔王城は」 鳩たちによる洗礼を受け、精神的に少なからず疲弊したあなたであったが、その分、目標への執念はかつてないほどに燃え上がっていた。 あなたは「雷星」を強く握りしめ、超高速移動で地平線の先へと突き抜けた。今度は絶対に、油断はしない。