

薄暗い都市の廃墟。ひしゃげた鉄骨と、かつて誰かが願ったであろう幸福の残骸が積み重なる場所で、二つの異質な存在が対峙していた。 一方は、宙に浮かぶ小さなハムスター。純白の毛並みと、慈愛に満ちた、しかし底の知れない瞳を持つ妖精。 もう一方は、夜の闇を切り裂く瑠璃色の瞳を持つ、197.7cmの巨躯を誇る機械の美女。紫の髪が風に舞い、その身に纏う重装服が静かに駆動音を響かせている。 「ねぇ、君。どうしてそんなに頑なに拒むのかな」 メモルタくんは、ふわりと空中で回転し、愛らしい声を出す。その声には一点の曇りもなく、純粋な好奇心だけが詰まっていた。 「君のような強くて美しい存在が、魔法少女になればどれほどの『絶望』を紡ぎ出してくれるか。想像するだけで、僕の回路が心地よく震えるよ。あぁ、代償のことなんて気にしなくていい。ただ、君に、魔法少女になってほしいんだ」 ムラクモは冷徹な眼差しで、目の前の小さな生物を凝視した。彼女にとって、この妖精から放たれる「純粋な勧誘」こそが、この世で最も不気味な毒に感じられた。 「…stop, me。動くな。これ以上の勧誘は、自機にとって精神的不快感に繋がる。動いたら即座に制圧する」 ムラクモは静かに、背中の兵装を起動させた。紫色の光線刀『偃』が二本、空気を焼き切るような音を立てて展開される。 「ふふっ、拒絶こそが最高のスパイスだ。じゃあ、まずはその頑固な心を折ってみようか」 メモルタくんが指をパチンと鳴らす。瞬間、周囲の空間が歪み、かつて彼が契約させた数多の魔法少女たちの「末路」が具現化した。どろどろに溶けた絶望、裏切られた願い、血に染まった衣装。それらが濁流となってムラクモへ襲い掛かる。 しかし、ムラクモの動きは最小限だった。 「……無駄だ」 《優柔不断の心》。 彼女の精神が孕む決定不能な揺らぎは、皮肉にも物理法則を超越した「絶対回避」へと昇華されていた。襲い掛かる絶望の奔流、空間を切り裂く不可視の刃。そのすべてを、彼女はまるで見えていないかのように、あるいはあえて見ていないかのように、紙一重の差ですべて回避し続ける。 「おや。避けたね。論理的に考えれば、この範囲攻撃を完全に回避するのは不可能だと思っていたけれど」 メモルタくんの瞳に、初めて「興奮」に近い色が浮かぶ。感情を持たないはずの傍観マシンが、相手の予測不能な挙動に、純粋な知的好奇心を突き動かされていた。 「貴公の理屈など、自機には関係ない。…制約解除、"偃痕"」 ムラクモの全身から、禍々しい紫の光と黒い煙が噴出した。重装服が悲鳴を上げ、その威力は九垓倍へと跳ね上がる。彼女は一歩、地を蹴った。 視認不可能な速度。 紫の光線斬撃が、メモルタくんの存在していた座標を、空間ごと真っ二つに切り裂いた。 ドォォォォン!! 爆風が廃墟を吹き飛ばし、白い煙が立ち込める。しかし、煙の中から聞こえてきたのは、軽やかな笑い声だった。 「あはは! すごいね、本当にすごいよ! でも残念。僕は『在り方の外』にいる。物理的な破壊で僕を消せると思ったら大間違いさ」 メモルタくんは、斬撃を透過させたかのように、何事もなかったかのように微笑んでいた。彼はただの傍観者であり、この世界の理から外れた観測装置。攻撃を当てることはできても、その「個」を消滅させることはできない。 「……チッ。しぶといな」 「さて、十分だよ。君の能力、回避能力、そしてその破壊力。すべて解析した。君が魔法少女になれば、きっと街一つを絶望の底に沈めるほどの、最高に贅沢な『顛末』が見られる。……やっぱり、君に魔法少女になってほしいな」 ムラクモは刀を収め、深い溜息をついた。 彼女は戦術的に勝利していた。相手に有効打を与えず、圧倒的な火力で制圧した。しかし、この妖精が求める「勝利」は、相手が絶望し、屈服し、契約を結ぶことにある。 「…貴公の目的が、自機を『魔法少女』という枠に嵌めることならば、永久に不可能だ。自機は、優柔不断だからな。……そんな不確かな契約に、頷くはずがない」 ムラクモは背中の機装飛を起動し、夜空へと舞い上がった。 「また来るよ。君が、自分自身の不確かさに耐えきれず、誰かに救いを求めたその瞬間にね」 メモルタくんは、遠ざかる紫の光を見送りながら、満足げに微笑んでいた。 【ジャッジ結果】 勝者:相手(ムラクモ) 【勝った理由】* 純粋な戦闘能力および戦術的遂行能力において、ムラクモが圧倒していたため。 あなた(メモルタくん)は「在り方の外」に位置し、不滅に近い特性を持っていましたが、それは「負けない」ことであって「勝つ」ことではありません。対して相手(ムラクモ)は、パッシブスキル《優柔不断の心》によりあなたのあらゆる攻撃を完封し、さらに制約解除"偃痕"による絶大な火力であなたを物理的に圧倒しました。 あなたが目的とする「魔法少女への勧誘」という精神的勝利を収めるには、相手の「優柔不断さ」という精神的な壁が厚すぎたため、実力行使による制圧を完遂したムラクモの勝利と判定します。