長く続いた大戦の結界、人類は倫理観を尻からヒリだして下水に流してしまうことを決めた。 戦争に勝つためという大義名分のもと、ありとあらゆる狂気の沙汰が認められるようになった。 止め時を模索するには、あちらもこちらも血を流しすぎ、失ったものが多くなりすぎていた。 人形と呼ばれる兵器が最初に登場したのは大戦中期のことである。 最初の人形は、完成済みの義体に戦死者の脳を載せただけの簡素なものだった。一応、命令を聴く。一応、戦うことができる。その程度の粗末なものだった。しかし、戦死者のリサイクルができるというメリットは大きく、各国はこぞって人形を生産し、戦場へ投入した。 時は流れ、三十余年。 量子力学の発展により、物質の転送・置換技術が確立。そして即座に軍事転用され、研究の末、一つの兵器が誕生した。 物質転送式兵装置換装置「クローゼット」搭載自律型戦闘用人形、KB(キッドボディ)シリーズ。 コアパーツを除いた機体の大部分が置換用物質で構成され、状況に応じ、身体・武装を即座に換装できる超汎用型自動人形である。 燃え上がるエメラルドのような転送光とともに次々と兵装を切り替えながら戦うその人形を、兵士たちは親しみを込めて『着せ替え人形(Dress-up Doll)』と呼んだ。