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【原初の主神】マグヌス・ドミヌス

草木は彼の為に生え、 動物は彼の為に生きる。 海は彼の為にさざめき、 山は彼の為に色を変える。 空は彼の為に姿を変え、 大地は彼の為に震える。 星は彼を照らす為に瞬き、 時は彼の為に動く。 彼は神の身でありながら神さえも超越した力を持っていた。 世界は彼を中心に形成されていた。 そんな絶対的な存在である彼は ひどく孤独であった。 強大すぎる故に周囲に妬まれ、疎まれ、蔑まれたのだ。 やがて彼自身も他者を拒み、性格は暗く捻じ曲がっていった。 ある時、彼は下界を覗いていた。 己が子らの生活を見守り、導くために。 彼が創り出したのは自身らの容姿を真似て、優れた知性を与えた"人間"という生き物である。 彼らは己の導きが無くとも生きていけるだろう。これが最後の観察になる…はずだった。 その時だった。 彼の目に止まったのは、満月の夜、教会で祈りを捧げる一人の女であった。 彼女は非の打ち所の無いほどの美貌を持ち、高潔な精神を持っていた。 彼は彼女を一目見た瞬間、これまでに感じたことのない感情に襲われた。 己が空虚を満たすかのような、心地よい感情に。 彼は彼女の前に降り立ち、己の元へ仕えるように言った。彼女は彼の言葉に応じた。 彼女もまた、孤独であったのだ。 彼は天界に戻らず、彼女と共に過ごすことを選んだ。彼女の包み込むような優しさに、孤独な神の心は徐々に解きほぐされていった。 やがて神の寵愛を受けしその女は、彼の子を身篭った。孤独な神は優しさを知り、喜びを知り、愛を知っていった。まさに天にも登る程の幸福の日々だった。 天界には、ある規則があった。 神と人間は深く関わってはいけないというものだ。 彼はその規則を破ってしまった。 天界の神々は憤慨し、死を司る神に女の腹の子へ呪いをかけさせた。やがて女の腹の子は、彼女の腹の中でその命を終えた。 悲しみに暮れ、日を増す事に痩せ細っていく妻を、神は見過ごすことは出来なかった。引き留める妻に別れを告げ、単身天界へと乗り込んだ。 絶対的な力を持つ彼に敵う者はおらず、彼は次々に天界の神を打ち倒していった。 しかし死を司る神を打ち倒した頃には、もう彼には立ち上がる気力は残っていなかった。 薄れゆく意識の中、彼は我が子と、愛しい妻を想っていた。 自分のせいで2人に不幸が降りかかり、苦しませてしまった。 せめてこれからは幸せな生活を送れるように。 二度と危険が及ばないように。 彼は最後の力を振り絞り、我が子に再び命の火を灯し、愛しい妻と愛しい我が子に加護を与えた。 そして彼は静かに息を引き取った。 彼はもう、孤独ではなかった。