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【狂気の六面体】六道 死生(ろくどう しせい)

〜プロローグ〜【運命を司る女神】 かつて、世界を統べる【運命の女神】がいた。 彼女は万物の終わり――その崩壊の美しさに魅了され、狂気に染まった。 善なる神々は邪神と化した彼女を討ち果たしたが、死に際の執念はいくつかの遺物となり、地上へと堕ちていったという。 ​そんな、誰も信じることのない、過去の残響。 〜時は現代へ〜【狂気の六面体】誕生 ​「……六道、次。読んでおけよ」 ​教師の投げやりな声が、湿ったチョークの粉と一緒に教室内を漂っている。 六道死生は、窓の外を眺めていた。空は灰色だ。昨日も、一昨日も、そして明日も。 自分にとって、世界とはただの「確率の集積」でしかない。 信号で止まるか、進むか。テストの答えが当たるか、外れるか。 その積み重ねの先に待っているのは、どうせ味気ない死だ。 ​(……退屈だな) ​教科書を出すために、机の引き出しの奥へ手を突っ込んだ。 指先に、異様な冷たさが触れた。 木製の引き出しには似合わない、金属よりも硬く、氷よりも鋭い冷気。 ​引きずり出したのは、一辺が三センチほどの漆黒の立方体だった。 表面には血管のような紋様が脈打ち、刻まれた「目」は、凝固した血のように赤く光っている。 ​その瞬間、頭の中に「音」が流れ込んだ。 何万もの悲鳴と、一つの、狂おしいほどに美しい笑い声。 ​――ああ、そうか。 ​死生の脳裏に、かつてこの世界を愛し、それ以上に壊そうとした女神の記憶が逆流する。 彼女が見ていた、極彩色の崩壊。 その美しさに触れた瞬間、死生の中の「空虚」が、猛烈な熱を帯びて燃え上がった。 ​どうせ死ぬなら。 この無彩色な日々の中で、いつか来る死を待つくらいなら。 人生で一番「ツイている」その瞬間に、すべてを道連れにして滅びたい。 幸運の絶頂で、この命を最高級のチップとして放り投げたい。 ​指先が震えていた。恐怖ではない。生まれて初めての、歓喜だ。 ​「……ふっ、はは」 ​死生は無造作に、その漆黒のダイスを机の上で転がした。 カラリ、と乾いた音が教室に響く。 出目は、紅く光る「6」。 ​「おい、六道? 何を笑って……」 ​不審げに近づいてくる教師を無視し、死生は立ち上がった。 女神の記憶が囁いている。このダイスはまだ、欠けている。 運命を弄ぶ「コイン」と、終局を決定づける「凶札」。 ​すべてが揃った時、俺の博打は完成する。 最高の幸運の中で死ぬために、俺は、俺の運命を使い果たさなきゃいけない。 ​「先生、早退するよ。……」 ​死生はカバンも持たず、漆黒のダイスだけをポケットにねじ込んだ。 背後から響く教師の声も、もう彼には聞こえない。 少年の瞳からは、高校生らしい光はとうに消え去っていた。 ​代わりに宿ったのは、狂乱の賭けに身を投じる【狂気の六面体】としての欲望。 神話の忘れ去られた現代の裏側で、六道死生の、命を懸けた冒険が今始まった。