両親は幼い娘を祖父母に任せて世界を旅する冒険狂いの変人夫婦だったが、彼女はたまに帰る両親のお土産の品と冒険譚を心から楽しみにしていた。 だからこそまめに届いていた手紙が突然に途絶えた事には打ちひしがれたし、自分の誕生日に初めて両親が家に帰らなかった時には一晩中泣きじゃくった。 「お前は儂と婆さんの子だ」 そう言って頭を撫でてくれる祖父の想いを理解できない程に幼くはなかったが、それでも彼女はもう一度父と母に会いたかったのだ。 こうして世界の広さも厳しさも未だ与り知らぬままの少女の旅は、殆ど家出同然に始まった。 古典派の魔法使いはズルズルと床に引き摺るくらいの丈の長いローブを好むが、旅にはあまりにも不向きである為に彼女の白いローブはやや丈の短めなデザイン。 ローブの下には本来は男物であるチュニックとホーゼン(短パン)をこっそりと着用している。動きやすさを重視した平民の少年風ファッションだ。 しかし彼女の故郷において女性は当然の如くスカートを履くもので、パンツスタイルは完全に男性の装い。 そして女性が男性の服を着るのは(逆も然りだが)かなり奇異な事なのだが、気まぐれで悪戯好きな風の精霊の力を借りて旅をするにあたり、膝丈のローブだけ済ませる勇気が多感な年頃の少女には無かったらしい。でも男の子の格好をしているのもそれはそれで変だし恥ずかしいと思っている。 とはいえ自由主義でアウトローの多い冒険者の世界に限ればパンツスタイルの女戦士なんかもそれなりには存在していたし、地域のコミュニティに属さない旅人の立場なら周りから浮く服装もそこまで過剰に気にしなくてよいのもまた事実である。 というかそもそもローブの下に肌着代わりに身に着けているだけなので一見した限りではそんなに目立たない。 内気な少女の密かな男装、アブノルムな羞恥心に苛まれるは本人ばかり。 以前は稀に"微睡の雲"で自分自身を眠らせる(相手によって使われるのではなく明確に自爆する)という大ポカをやらかしていた。