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【幼き人狼】リルフェル

母を奪われたあの日の事は今でも鮮明に覚えている。 あの日の恐怖も、私を逃がした時の母の眼差しも。 何かに取り憑かれたかのように武器を振り下ろす、憎悪に満ちた人間たちの表情も。 あの日から、私はずっと独りぼっち。 私は争いなんてしたくない。 平和的な理由なんかじゃない。 だって、私の中には人間の血が流れているから。 身勝手で残酷な、母を奪った人間達と同じ血が。 だって、私の中には狼の血が流れているから。 本能のままに獲物を襲い喰らう、獣と同じ血が。 私は人間を憎んでいる。恨んでいる。 母を奪った人間を。 歪んだ正義を振りかざす、自分勝手な人間を。 自分を見失えば何をしてしまうか分からない。 一度踏み外したらきっともう二度と戻ってはこられない。 そうなってしまえばそれこそ、母を奪った『人間』と何も変わらなくなってしまう。 私は黒狼。 人狼と人間の間から生まれた、生まれついてのはぐれ者。 人狼と人間、そのどちらにも属せない存在。 こんな私でも、いつか居場所を見つけられるのかな? いつか、誰かと笑いあえる日がくるのかな…?