-アニマ・リベルタス- 彼岸と此岸の合間に存在する少女。曰く、彼岸(あの世)と此岸(この世)の間には世界同士を隔てる空間があるようで、彼女はそこに偶然迷い込み、何百年も一人で過ごしたそうだ。 だが、なかなか暇にはならなかったらしい。此岸から流れ着いてくる遺物や、色々な時代から流れてくる誰かの記憶など色々な物が右から左へ彼岸へ流れていく。彼女はそれをぼーっと眺めたり、流れ着いた物で遊んだり、誰かの記憶と話したり。 特に彼女は、記憶と喋るのが好きだったそうで、彼女が【ソードマスター】の称号を得れたのも剣豪の記憶のお陰である。同時に、マジシャンの記憶により他人を騙す才能も開花した。 ある日、彼女が1人マジックで遊んでいると、彼岸の方から1人の死神がやってきた。どうやら、彼岸の方で、此岸に未練がある人が続出したらしい。聞けば、 「幼い子供と話して、小さかった頃の娘を思い出した」 「やり残したことが出来てしまった」 「せめて顔だけでも見に行きたい」 と言う人が増えたのだと言う。そういう訳で、彼女は毎日流れてくる誰かとの記憶と話すのを禁止されてしまった。 そこからの毎日は、たまに流れついてくる記憶を彼岸に送る以外ずっと孤独で、することが無くなってしまった。 彼岸や此岸へ行こうとしたが、所謂「半分人間で半分幽霊である」状態でどちらに行くことも不可能であった。 そんな彼女をあまりにも不憫だと感じた死神は、狭間の世界に赴き、彼女に彼岸に来ないかと交渉した。彼女は賛同したが、鎌が彼女の体を切る刹那、鎌は有り得ない形にひしゃげ、使い物にならなくなってしまった。 狭間の世界の夜は綺麗である。もっとも、昼も夜も暗い空が広がっているが。それでも、彼女がいる島のような場所や、常に流れが穏やかなどこまでも広がる青の海などの美しい場所や、蛍のように漂う記憶たち、どこかで死んだ(?)のであろう遺物(プラスチックゴミ)と、それを清掃する彼岸の業者の人など、見てるだけでも飽きない。 人が記憶化する条件とは、此岸の人々がその人を完全に忘れることらしい。歴史に残らなかった人、つまり、~の戦いや~の乱などで無惨に散り英霊となった者たちのことだ。だとすれば、いつしかアニマも記憶化してしまうということである。彼女はそれを知り、何とも言えない気持ちになった。彼女自身も未練が無いわけではないのだ。 元々、アニマは普通の人間である。ごく普通の家庭に生まれ、そのまま誰もが想像出来るような人生を歩む予定だった。 どこかで歯車が狂ったのだ。しかし何故かアニマには記憶が所々抜けている。考えられる理由とすれば、もう最初にアニマが流れ着いた時から200年以上は経っているということ。つまりアニマはもう若干214歳以上なのだ。恐ろしい事実に彼女は恐れ戦きながらも、あることに気づく。時々、彼岸から此岸へ流れる記憶が居たのだ。 いつか、死神に隠れてその記憶を捕まえることに成功した。名をカールと言うらしい。カールが言うには、「覚えてくれている人が一人でも居れば、特例の場合のみ現世還り出来る」らしい。 アニマはその条件に当てはまっているので、時々来る死神にその事を話してみると、「アニマさんはもう既に実行済み」とのことだった。元々彼女は彼岸側の人間だったのだ。 彼女は落胆したが、死神は「たまに此岸の壁を破られることがある」と彼女を慰めるように言った。「壁が破られるのは、壁が壊れるような高エネルギーが壁に浴びせられた時」だとも。 早速彼女は流れてきた遺物で色々試してみた。スプーンから冷蔵庫、人々の記憶や死神の鎌、対戦車砲にアトランティスまでぶつけてみたが壁は壊れなかった。此岸と言えど、壁はそうやわでは無いらしい。 ぶつけてるうちに、彼女は「こんなに壁は硬いのに、記憶たちはどこから入って来てるの?」と不意に思った。探ってみると、不意にポータルのようなワープホールが開き、無数の記憶が新鮮な魚のように入ってくる様子を目撃した。心底喜んだ彼女は、そのポータルに入る方法を探すことにした。 結論から言うと無理だった。仲良くなった現世還りの記憶を経由し、入ることは成功したが彼女だけが狭間へ戻ってくるだけだった。 そんな日々を送っていると、いつもとは違う遺物が流れ着いた。炎と水が双方を打ち消さずに纏っている剣、光と闇が拮抗しあうように併存している剣。この狭間にはフィクションの遺物も流れ着くようだ。早速彼女はこの2つの剣をもって此岸の壁に突進切りをしたが、彼女だけが数千メートル後方にぶっ飛ばされ、壁には一つも傷がつかなかった。 そんな結果についに彼女は壁を壊すことを諦めた。 彼女は元通りの、記憶と喋ったり、遺物で遊んだりする日々に戻った。この頃になると流れてくる記憶が少なくなり、死神も記憶と喋ることを許可してくれるようになった。 いつしか彼女の周りは記憶達が集まるとても彼岸と此岸の間とは思えない憩いの場となった。特に、彼女のマジックショーが人気で、彼女の笑顔も相まって記憶たちの数は日に日に増えていった。 彼女のマジックの腕前は増すばかりで、プロ顔負けレベルまで成長した。それどころか、記憶たちの助言から物事を改変出来る能力まで手に入れてしまった。記憶たちも、この能力のメカニズムは分からないようだ。 そうして、彼女がマジックショーに改変能力が加わりますますマジックショーは繁盛した。 こうして、彼女は多くの記憶を笑顔にしてきた。そんな彼女に幸運が舞い降りた。 彼女が生み出した小さな此岸との相違が【バタフライ・エフェクト】を引き起こし、此岸の壁に初めてヒビが入った。 しかし、そう簡単に割れる壁では無い。だが、彼女は手元にあった剣を持ちこの機を逃さんと壁のヒビへ突っ込んだ。 ヒビへ剣が当たり、凄まじい相反するエネルギーが壁とアニマへ流れ込む。アニマの髪と服は風でなびき、周りの海は怒れる神と化した。アニマは膨大なエネルギーに負けそうになる最中、記憶たちがアニマの背中を押していることに気づいた。この記憶たちも、元は此岸の存在で、ただ戻るべき場所に戻りたいだけなのだ。しかし、壁は壊れない。でも、彼女も諦めない。 「【オーバードライブ】!!!」 壁は破壊された。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 気がつけば、周りには倒れた自転車と自分、急停止した車、そして青空が広がっていた。傷だらけの腕を見て、自分に何があったのかを理解した。それと、現世に還れたことが分かった。 ふと空を見ると雲を描く飛行機が飛んでおり、彼女に別れを告げるように上へ飛び去った。 様々な日常生活の音と共に「そこで少し頭でも冷やしておいてください」と声がして、彼女はそっと無限の青空へ微笑んだ。 -fin-