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MLv25 《黎明の魔法少女》夢野アケル

 アケルは女の子になりたかった。  その気持ちに初めて気付いたのは、小学校を卒業して、中学に入る為に準備をしてた時のこと。アケルの家は中学校のすぐ近くにあり、子供の頃から通学する中学生達をたくさん見ていた。 「ぼくも女子の制服が良かったなあ」  夜ごはんの時にそう呟いたら、母親が泣き出してしまって、それ以来、アケルはその気持ちを誰にも言わないようにしていた。  アケルは明るく優しい性格のお陰で、男女とも友達が多かったけれど、男友達だけでするような話題にはあまりついていけず、にこにこと笑うだけでその場をしのいでいた。男友達からは「むっつりだから」とからかわれたけど、あまり気にしてはいなかった。  ネットで気軽に情報が得られる時代、女性向けの洋服を扱う通販サイトなんかを眺めながら、自分の体に対する違和感の正体を探っていった。LGBTについても熱心に調べたが、母が泣いてしまったショックがずっと心に引っかかっていて、周りの誰にも相談が出来なかった。  アケルの「女の子になりたい」という気持ちが確信に変わったのは、バレンタインの時、一番仲の良かった男友達が他のクラスの女の子から告白されたのを知った時。付き合うことにはならなかったらしいが、アケルは頭を鈍器で殴られたようにくらくらしていた。  もしも女の子に生まれていたなら、堂々と男に告白しても良いんだ。  それから、アケルの思考は止まらなくなった。昼間はいつもと同じように過ごせていたけれど、夜になると悔しさが込み上げてきて、何度も泣いた。一晩泣き腫らした目には夜明けの光が眩し過ぎたけれど、太陽の光は、孤独な夜が過ぎた安心感も与えてくれた。  高校生になったらバイトをしよう、それで大人になったら自分と同じような人の為の飲み屋さんに行ってたくさん話をして、たくさん働いて、お金が貯まったら外国に行って手術をするんだ、そうしたら自分はもう泣かなくても大丈夫になる。そうやって何度も自分に言い聞かせながら、朝日が昇るのをずっと待っていた。  いつもの孤独な夜。女性向けのメイク方法の動画を観ていたら、妙な広告が挟まった。  女の子になれる方法がある?  それも、今すぐに?  アケルが『魔法少女』になったのは、彼にとって救いだったのかも知れない。  願いを叶えた対価として辿る事になった運命がどうなるかは分からなかったけれど、手に入れた魔力をどう使うか、アケルの心は揺るがなかった。