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《 Chapter 1-1 「海を渡って」 》

焼ける空に、朝日が昇りゆく。 だが、響く鈍い音は一度たりとも止むことはない。 ここは終焉へ向かう戦場だから。 ... ....... ____「おい、起きろ!」 地面に落ちた男は目を覚ました。 眼前に広がるのは、見渡すばかりの荒野。 そして、亡骸。 「次弾、着弾しますわ!回避を、奏!」 瞬間の爆発ののち、目の前の土煙が晴れていく。 「全く、加減を知らないみたいだな、お嬢?」 「えぇ、こちらも火力全開でいきますわよ!」 楽器を掲げる男と、ガトリングを両手に抱えた少女が前に踏み出したかと思えば、はるか向こうへと銃口を向ける。 男は即座に直観した。 『私も戦わなければ。』 「君たち、私もともに......」 「わたくしのような力ある者は、貴方たちを守る義務がありますの。おとなしく守られて下さいまし。」 はるか遠くに銃口を向けたまま、彼女は断った。 だが男には譲れなかった。 「......なら、力を示せばいいということだな。」 楽器を構えたまま、男は一瞥する 「あんまり無理はしない方がいいぜ?」 言ってしまえば、気圧されていたのだろう。 差し出された手を取り、見晴らしの良い場所へと歩き出した。 その間も、彼女の銃口は敵の方角へと向けられていた。 「これは"英雄"として、そんでもって地獄のような会社に勤めてた社会人としてあんたに言っておく。」 えぐれた地面、折れた枝、そして金属片。 荒野には戦争の証拠たるものが散乱していた。 だが特筆して奇妙なのは、死体がないことだった。 怪訝に思い、問いかける。 「戦死したものはどうしたんだ?」 「この世界では、死んでも生き返ることができますの。」 男が続く。 「だから、この戦争は終わらない。」 視界の遠く、はるか先の地平線に、多くの影が揺らいで見えた。 翼をもつ獅子。大盾を掲げる鹿。砂を泳ぐ鮟鱇。 自軍の方角を見ても、一切の援軍は見えない。 男は息をついたあと、向きなおし、かすかに笑った。 「俺の名前は幸田奏。よろしく頼むぜ。」 隣の少女がそれに続いた。 「わたくしはブチコーム大佐!お好きなように呼んでよろしくてよ?」 彼らが「英雄」という名乗りにふさわしい実力を持つことは直観的に理解できた。 「俺たちは今、とある国との戦争下にある。」 「ここはその戦場だ。」 「あんたがここに来た仕組みは、あとで説明する。」 「気を抜かないでくださいまし。油断すると体に穴が......」 彼女の言葉のあと、即座に数発の光弾が上空を飛翔し、前方を複数の異形が駆け抜けるのが見えた。 その直後、数本の刃を携えた狐のような生き物がこちらに襲い掛かってくる。 奇妙な形状をしたその生物の眼には、一切の生気がなかった。 「話をすれば......お嬢!」 「いや、私に任せろ!」 男は即座に飛び出し、力をためる姿勢を取る。 「これでも食らえ!」 「超ウルトラスーパーすごい一撃!」 大ぶりの拳をぶつけた瞬間、敵の骨格がゆがむ。 衝撃波の発生よりも早く肉体は飛翔し、進路上の敵を巻き込んで砕け散った。 「......どうやら、嘘じゃないことは確かみたいだな」 「私の名はすごいマン。」 「私の拳は隣の山田さんの箸使いよりも強い!」 「なんですの......そのポーズは......」 それを形容するならば、まさしくグリコだっただろう。 「......なんで星渡には変な奴が多いんだ。」 すごいマンは構えなおし、拳を次の敵に向ける。 「続けるぞ、二人とも!」 彼の降りぬいた拳に、二人も続いていく...... ......