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どこか儚げな美少女 Ver32

 学校の窓辺、朝日が照らす教室。一人一人の名前が順番に呼ばれていき、とある少女もまた名前を呼ばれるのを待っていた。  ___その少女の名は……、  「山田詩さん〜!」  名簿に刻まれた名前、それを教師が呼ぶ声、私は白塗りの天上に向けて手を真っ直ぐに伸ばし、返事をした。  「……はい」  おはようございます、私の名前は打倒者こと山田 詩(やまだ うた)と申します。現在は訳あってフウタローの妹として生活を送っています。  ___ハァー………。  少女の吐息、打倒者は退屈そうに机に頬杖をついた。  今の私はフウタローの妹という役割を任された存在。しかし、私の我儘が聞き入れられるのであれば、本当は妹より"姉"の方がよかったと思っています。  まぁ、後から愚痴をこぼしたところで先が良くなる訳でもない。私は、鬱屈とした教室で溜息を漏らす。  それに退屈だ、平和すぎてソワソワとする。何と表現すれば適切かなんて分からない、なんと言うか……こんな平和ボケした空間にいると落ち着かない。  机の上にある消しゴム、それをほんの少しだけ指先で小さく転がせる。  やっぱり、私はフウタローの姉役の方が適任だったと今でも強くそう思っています。  ……というか、最近は色々とありすぎて正直なところ疲れてしまいました。こんな温かな日差しが登る日に集団で集まって頭を使うなんて非効率的です。もっと有意義な時間の使い方というものが……、  ___脳裏を駆けるは死闘。  欠伸を一つ、机に体を突っ伏した。特に押し潰れる要素のない胸部を机に押し付けて両腕を枕のように組んでみせた。  眠気が肉体を支配する。その脳裏では、フウタローの事がよぎった。  あっ、そういえば……、マフラーを返してませんでしたね。  自身のランドセルに押し込まれたマフラーを思い出し、悩むような唸り声を挙げた。  んー、まぁ……今日一日ぐらいは大丈夫でしょう。帰った時に返せば全て問題ありませんね。  そうと決まれば、その重い瞼を閉じて詩は眠りへと落ちていく。最近は色々とありすぎて疲れた、嫌な事は眠って忘れる事に致しましょう。  ___加担者。  俺は汗水垂らして日々働くバイト戦士、その名も___!  「フウシャン!、3番テーブルに炒飯定食3つアルネ」  ここは中華屋"白白(パイパイ)"、そして客からの注文を伝える少女の声。俺はそれを厨房で聞き、それに応えるように大きな中華鍋に油を注いでは拡げ、業務用ガスコンロの大火力で一気に材料を掻き混ぜていく。  ___くくくっ、ここからが俺の見せ所だ。  片手間に三人前の餃子を焼く、そして溶き卵を中華鍋に流し込んだと同時に鍋内の米をひっくり返すように高速で掻き混ぜていく。  見よっ!、これが俺の1年間修行した成果だ!  今は何時かは分からないが、昼の繁忙期を過ぎた頃だろうか。  「あちーっ!」  厨房の熱気にやられた俺、その火照った顔に手で風を扇いでいると、とある少女の声が聞こえてくる。  「フウシャン、辛苦了(シンクゥリャ)!」  何言ってるのか俺にはさっぱり分からんが、たぶん労いの言葉かなんかだろう。  そして、俺の目の前にいるのは中華服に身を包んだ正真正銘の中華娘、この店の看板娘"桃(タオ)"である。  「フウシャン、もうへばったアルか?」  「いやさ、久しぶりの厨房だから体力的に付いていかなくてな……というか、お前って昔からそんな語尾にアルとか付けるテンプレ中華キャラだっけ?」  「いやネ、最近は語尾にアル付けた方がお客さんからのウケがいいアルからね」  「マジかよ。じゃあさ、その中華服も客受け目的か?」  そう言って俺は、桃(タオ)の着ている日本人がイメージするテンプレのような赤い中華服を指差した。  「フフン、これは母さんから最近貰った古着だアルよ、これに関しては完全に趣味ネ」  そう言って実りの豊かな胸部を揺らして笑う桃(タオ)。つまりコスプレって事かな?、と…俺が思っていると誰か客が来たらしく、店の扉が開いた音がする。  俺は反射的に掛け声を出す。  「いらしゃいませ、何名さま…で……えっ?」  一人の客、少女がいた。  「あっ?、うち一人だよ……って、テメェは!?」  思いがけないヤンキー少女との再会である。  不良少女のかけた眼鏡、それが店内照明にキラリ…と反射する。俺と相手は互いに指を差して驚き、そして固まった。  「ナンネ……?、二人は知り合いアルか?」  「「全然…!」」  息のあった否定、桃は笑ったが俺たち二人はそうとは行かないようだ。  少女に胸ぐらを掴まれた。  「言った筈だぜ、次に会った時がテメーが墓場に入る時だってな!」  「いやいやいや!?、バイト先に来られたら回避しようがないだろ!、これは不可抗力ってやつだ!」  必死に弁明、及びに場を一旦落ち着かせようとした。しかし、時すでに遅かったようだ。  「知らねぇよ!、言い訳は閻魔のドテッ腹の前でやりやがれ!」  放たれた拳、迫り来るは俺の顔面。俺は思わず顔を逸らそうと真横を向こうとした、そんな時の事であった。  「アチョーッ!」  どこからか聞こえた怪鳥音、ブルース・リーを想起させる飛び蹴りがヤンキーを襲った。  ___ドガッ…!  胴体部に直撃した飛び蹴りがヤンキーの小さな体を空中へと大きく吹き飛ばす、テーブルや椅子を巻き込んだ落下音に反して中華屋"白白"の看板娘"桃"は優雅に着地し、両腕を高く左右へと広げた。  ___鶴の構え、周囲を威嚇するように敵を見据える。  「二人に何があったか知らないアルけど、この店での暴力は厳禁アルよ!」  と言いつつ、壊れたテーブルや椅子、この店で一番損害を出した張本人は桃その人である事をツッコンではいけない。  「いってーなッ!、不意打ちで殴りかかるとか卑怯だろ!」  ヤンキー少女が立ち上がる、それに対峙するは稀代のカンフー少女である。  「殴る?、ノンノン!、私は蹴っただけアル!、それにフウシャンに対して急に殴りかかったのは貴女のほうネ!」  俺は一瞬の出来事に驚きつつ、桃に呟く。  「桃、お前ってカンフーも出来たのか!」  驚愕した俺とは一転して、桃はフフン…と鼻を鳴らして笑うとこう呟いた。  「いやネ、最近はカンフーできる美少女がお客さんからのウケがいいアルよ」  「いや客受け目的かよ!」  「安心しろネ、カンフーは母さん直伝だから強さは折り紙付きネ」  母さん?、じゃあ桃の母親もカンフーができるのかよ!?  色々と新事実を知った今日この頃、そんな俺を遮るようにヤンキー少女は叫んだ。  「上等だ!、お前ら全員この私が相手してやんよ!」  壊れたテーブルの破片を払い除け、着こなした特攻服の襟首を立てて叫んだ少女。  これは……、荒事は避けられないか…!?  ………そう思っていた時であった。  ___ガラガラ…!  店の扉を開く、全員の視線がそこに集中すると同時に誰かが入ってきた。  「これはどういう状況だい?、私の店で何してるのさ」  店に入ってきた女性が店内を見渡すように睨みを効かせる、そして何を隠そうこの方が……!  「おいフウタロー、そして桃!、それにそこの薄汚いガキんちょ!、お前ら全員に私の店を荒らした落とし前をキッチリ付けてもらおうじゃないか」  ___ゴキリ…!  完全に戦闘モードに入った女性、この場の空気が一瞬にして凍りついていく。  俺はどうにか声を出そうと上擦った声で叫ぶ。  「ま、待って"玥(ユェ)"さん!、とりあえず話だけでも…!」  「おいフウタロー、今は仕事中だ!、私のことは店長と呼びな!」  「は、はい店長!」  全身から吹き出した汗、俺のバクバクと音を立てる心臓が更なる音を立てて加速する。  「それから桃!、どういう事か私に説明してみな!」  怒気のこもった声、桃は内心ちびりそうになりながら声を発する。  「か、母さん、これは……ちょっとした手違いアルよ。じ、実は___」  「もっとハキハキと喋りな!、私は仕事中にそんな情けなく喋るように教育した覚えはないよ!」  「………ピッ!?」  ___バタン…!  桃が気絶して倒れた、口からは泡まで吹いている始末だ。大丈夫かよ桃…!、と内心で心配はしたが、今はそれどころではない!  「チッ!、だらしがない。でっ、お前はどうなんだい?」  店長の視線、ふんぞり返ったヤンキー少女に向けられる。二人の切れたナイフのような視線がカチ合った、互いに威嚇し合うように近寄っては急接近した顔面で火花を散らせる。  「壊れたテーブルと椅子、それから壁の修繕費、どう落とし前を付けるつもりだい」  「知らねぇよババア、テメェんとこのカンフー気取りが勝手に暴れて壊しやがっただけだろ!」  一触即発、これはマズイ……。  「ま、まあまあ……、お二人とも一旦落ち着い___」  「「うっせぇわ!、ぶっ殺すぞ童貞ッ!」」  「グフッ……!?」  理不尽な暴力が、俺を襲う。  二人の拳が同時に俺の顔面を穿つ、俺は鼻血を垂らしながら物凄い勢いで後頭部から床に倒れ込み、そのまま気絶してしまった。 https://ai-battler.com/character/699c0f11-f579-4ee1-8dae-7b9f22a68b01