夜の帳が降りるとともに、ひっそりとした山間の村に一筋の風が吹き抜けた。風はまるで何かを囁くように揺れ、静寂の中に微かな異物感を残す。その中に佇む少女――化野川ナエは、月光に照らされた銀色がかった黒髪を揺らし、紫がかった赤い瞳を細めた。彼女の肩には薄く透明なマントが羽織られている。月の光を受けて虹色に輝くそのマントは、まるで生き物のように彼女の感情に応じて波打っていた。 ♢ ナエが幼い頃、彼女の故郷は静かで平和な場所だった。しかし、彼女の家族が持つ「真実を暴く瞳」の力が村人の恐怖と偏見を呼び起こした。ある晩、両親が村の支配者の不正を告発したことで、運命の歯車は狂い始める。支配者の反撃に遭った家族は、村人たちの裏切りによって追放され、両親は無実の罪で命を落とした。 その夜、ナエは幼いながらもすべてを理解していた。両親の最期の言葉、「お前の力は真実を映し出す鏡だ。それを恐れる者もいれば、救われる者もいる」を胸に刻み、彼女はひとり、闇の中に消えていった。 ♢ ナエの旅は試練の連続だった。人々の間に紛れ込み、時に他人に成り代わりながら彼女は生き延びた。ある町では、貧しい孤児たちの隠れ家を見つけ、そのリーダーである少年に変装して悪徳商人を欺き、彼らを救った。別の村では、伝説の怪物が村人を襲うと噂されたが、ナエは虚像の力で怪物を作り出し、盗賊団の陰謀を暴いた。 彼女の力は次第に洗練されていった。しかし、何よりも成長したのは彼女の心だった。最初は自身を守るためだけに使っていた力が、次第に他者を救うための武器となったのだ。 ♢ ある日、ナエはひとつの村で、自らの過去に繋がる人物と再会する。彼はかつてナエの両親を裏切った村人だった。年老いた彼は、深い悔恨をその瞳に宿しながらも、ナエに助けを求めた。村は再び権力者の暴虐に苦しめられており、誰かの助けが必要だったのだ。 ナエは彼を見つめ、その瞳で彼の「化けの皮」を暴いた。そこには罪悪感と赦されたいという切実な願いが映し出されていた。怒りと悲しみが胸を貫く中、ナエはその老人を赦し、共に村を救う計画を立てることを選んだ。 ♢ 計画は成功し、村は解放された。老人は涙ながらにナエに感謝し、その場で彼女に跪いた。ナエは彼を見下ろしながら静かに言った。「真実を見抜くだけでは、誰も救えない。だが、それをどう使うかで未来は変わる。」 その後、ナエは再び旅路に出た。彼女が去った後、村人たちは風に揺れる虹色のマントを見上げ、彼女の存在を記憶に刻んだ。彼女はもはや、ただの旅人ではない。彼女は清楚な仮面の裏に隠れた「猫被り背神者」として、人々の闇を暴き、光をもたらす存在となった。 ナエの瞳には、これから出会う幾千もの真実と、救われるべき命の輝きが映っていた。彼女の旅は終わらない。そして、その足跡は風と共に語り継がれていくのだろう。