《 あらすじ 》 突如戦場に落ちた「すごいマン」は、偶然すぐ近くにいた「ブチコーム大佐」と「幸田 奏」と共に戦場を切り抜ることを決めた。 「死んだ者が生き返る」特異な環境を前にしても、三人の力は圧倒的であり、敵を蹴散らしていった。 ある程度落ち着いたとき、奏の提案で、すごいマンは解放戦線の本拠地に向かうことを決めた...... _________ 「......だが、どうやってそこに行くんだ?」 すごいマンは純粋な疑問を唱えた。 「この場所には移動手段はないようにみえる......」 周囲を見渡しても、広がるのは相変わらず荒野のみ。 いくつかの岩、そして焼け跡。 いくら遠くを眺めても、建物らしい建物は見当たらない。 赤焦げた地面は、先ほどの激しい戦闘などなかったかのように相変わらず佇んでいる。 それを証明できるのは、もはや自分の肉体しかいない。 当然、そこには羽のついたものは居なかったし、いたとしてもその首を潰したのは自分だった。 「星渡はいつもそう言うんだ。今から説明しよう。」 奏は答えた。 _____ まず前提だが、ここは地球じゃない。 この惑星は「ニザヴェリル」。 俺たち解放戦線の領星の一つだ。 今は覚えなくていいぜ。そのうち勝手に身につくからな。 重要なのはこっからだ。 俺たちが戦っている「龍騎軍」は、独立を宣言した国家「グラズス」の軍部に相当する。 だけど、星同士の移動は正直言って物理的な移動じゃ時間がかかりすぎる。 だから俺たちは「星海渡り」を使って移動してるんだぜ。 あんたがこの世界に来た時のそれと、似たような技術だ。 正確には別物だけどな。 _____ 「今からそれを使って本部に行く。」 彼がそういうと、わずかにゆがんだ空間に、夜の星空と形容すべき裂け目が出現する。 それはまさしく「星海」であった。 「それで、本部のある星はどこなんだ?」 「私はとっととパイナポォォォォォ!が食べたいのだが。」 「パイナ...なんですの、それ......?」 「とりあえず、ついてきてくださいまし。」 奏が裂け目に入り、ブチコームが後に続く。 彼女の全身が裂け目に消え、おそるおそるすごいマンも身を入れる。 外部からは海のようにみえる星々は、だがわずかに実物とは異なっていた。 見慣れた星座はなく、不規則にその光は移ろい、ときには暗黒が見えることもあった。 一歩踏み占めるたびに、その水面は怪しく輝き、ゆがんだ自分が反射する。 たった数歩の距離に、ここまで心細いと感じたのは初めてだった。 いや、心細いというより、自分自身が薄められていくような...... 「こっちですわ!」 目前の裂け目から彼女の手が現れ、すごいマンを引っ張り出した。 浴びなれた太陽光が体に当たり、わずかに肌寒い空気のなかでも表面が暖かく感じる。 顔を上げればそこは見慣れた自然だった。 「ちょっとずれちまったぜ......ま、許容範囲か。」 そういって奏は草原を歩き出す。 「適当がすぎるんじゃありませんの、奏?」 ブチコームはやや不満げだった。 どうやら、星海渡りには座標指定をする必要があるらしい。 それを見て、すごいマンが口を開く。 「なんだかよくわからないが、一緒にパイナポォォォォォ!でも食べないか?」 「うまいもん食えばそんなことどうだってよくなるはずだ!」 「な!わたくしがまるで食いしん坊であるみたいに......」 先にすすんでいた奏が軽く振り返った。 「あながち間違いじゃないだろ、お嬢?」 顔を赤くした彼女は、奏を追いかけて走り出す。 それに遅れないよう、すごいマンも走りだした。 遠くには白んだ山脈と、異質な柱があった。 このときは、そこが目的だとは思いもしなかっただろう。 ...... 柱の麓に着くころ、周囲には見慣れない町が広がっていた。 おそらく、もともとはビルだっただろう場所が崩落し、草木がはびこっている。 そんな場所の一角に多くの店や家屋が並び、異質な雰囲気を創造していた。 住民もまた、それに比類するほど珍しいものだった。 人型のものであっても、頭部が犬であるもの、3m以上大きなもの、魚のヒレがついているもの...... 人型でないなら、鹿、ドラゴン、蜘蛛、形容しがたい造形のものまで。 三人がその柱の麓に着いたとき、ようやくそれが昇降機であることが分かった。 「これに乗って、空に上がりますの。」 半径5mほどの大きな円盤が上昇し、徐々に空へと昇っていく。 丁度側面が透明になり始めたころ、青い星が見えた。 地平線が丸みを帯び、半透明の膜のような大気に覆われている。 上昇しきった昇降機は動きを静かに止め、周囲の扉が上がる。 無機質な外壁と、整理された広すぎる通路。 大型の窓は、先ほどの地上のものよりもかなり古く見えた。 「この先に俺らの人員管理担当がいる。」 「そいつに話せば、あんたも解放戦線に入れるはずだ。」 妙な沈黙が走る。 「......やっぱり、最初に言っておきますわ。」 「もし入れば、星渡である貴方は前線に出るほかありませんの。」 「特に、それだけの力をもつ貴方なら......」 彼女は星渡を前線に出したくないようだった。 それもそうだろう。あの二人でさえ簡単にはいかない戦場では、異世界からの来訪者といえど無事ではいられない。 だが、そんなことは彼には関係なかった。 「なんの、私なら問題はない!」 すごいマンは雰囲気をうち壊すように答えた。 「みんなうまいもん食えばどうにかなるはずだ!」 グリコのようなポーズを取った彼は、誇らしげに決める。 「......まぁ、そうかもしれませんわね。」 「かつてここが戦場になったときも、そうでしたもの。」 「お嬢、その話は今度話してやることにしようぜ。」 奏は向きなおし、言葉を続ける。 窓から差し込むわずかな光が、彼の顔を照らしていた。 「その決意、受け取った。」 「早速だが、次の作戦を始めよう。」 「単純な作戦だが、おそらくお前の力も重要になるはずだ。」