ある日の昼、 久しぶりに本でも読もうと、 グレコが書庫に寄ったところ。 抱えるように本を読む、 新月の勇者___ サン・ルルスの姿があった。 「お前も読書か? 珍しいな。」 「こっちのセリフだ。 クソ。リラックスできてたのにな。 なんで今日来るんだよ、 仕事だったろうが。」 「もう終わらせた。」 「……魔王軍の幹部相手って 聞いてたんだけど?」 「まだ新参の魔王の、であろう? 俺であれば、その程度は 手を薙ぐ程度で事足りる。」 「…ああそう。」 気怠げに吐かれたその言葉からは、 もうアンタが全部やれよ、 という思いがありありと見てとれた。 「僕が命を賭けて敵陣に潜入して、 敵将の首を奪ってるってのに。 アンタは正面から、 全部消し飛ばせるんだもんな。 羨ましいかぎりだね。」 「…そう卑下するな。 逃げる敵将に対しては、 お前の方が得意だろう。 俺であれば見逃してしまう。 それに、破壊規模の差もある。」 「アンタは敵が逃げる前に 皆殺しにするし、焼けた戦場の跡も 太陽の恵みで緑に戻せるだろ。」 「……………。」 「そういえば。 お前のことを、 ネルが探していたぞ。」 「あの女が? じゃあ、見つからなかったとでも 伝えておいてよ。」 本から目を上げることもなく、 サンはそう言った。 「今日、僕は休日なの。 あれの無駄話になんか 付き合ってらんないね。」 「そう毛嫌いするものでも ないだろう。確かに彼女の話は、 聞くに耐えない戯言であることが 多いが…」 「アンタも聞くに耐えないって 思ってるんじゃないか。」 「最後まで聞け。 …身内との会話は、大切にした方が 「おい」 「誰が身内だって?」 今まで本に視線を走らせていたサンが、 存分に嫌悪感を湛えた目で、 グレコを睨んでいた。 「あれは姉じゃない。 あいつが勝手に そう言いふらしてるだけだ。 アンタも知ってんだろ。 俺とアイツの間に血縁はない。」 「…誤解を与えたな。 三勇者として、 という意味での"身内"だった。」 「…ハ、 三勇者同士、 仲良しごっこでも やりましょうってか? 気色悪い。どのみちゴメンだね。」 サンはページに栞を挟み、 パタリと閉じる。 「…分かってると思うけど。 あれは無垢な女じゃない。」 「大量殺人者だ。既に人を、 数え切れないほど殺してる。 あの女がここに就いてから、 何度戦争があったと思ってんだよ?」 「アンタのことなんざ忘れてる。 幻想を抱くのは止めなよ。 みっともないぜ、勇者どの。」 「アンタはそもそも、 ネルという人間を救えなかった。 そこを履き違えるな。」 「……忠告、感謝する。」 後悔を滲ませるグレコを見てサンは、 鼻をならし、書庫の外へ向かう。 その姿を見送って、 グレコは、一冊の料理本を手に取った。