...私に何か聞きたい事でもありますか? ...まぁ折角私と戦ったんです。 少しだけ、私の昔のお話を致しましょう。 私はかつて、運送業を生業としていた、ごく平凡な青年でございました。 運送業とは申しましても、私の仕事は荷物を積むことばかり。 体力に恵まれていないものですから、任されるのも自然とそのような役割ばかりでして。 決して誇れる日々ではありませんでしたが…… 今振り返れば、悪くもない毎日だったのかもしれません。 そんな折、一件の依頼が入りました。 「列車へ荷物を積み込む」という、いつもと変わらぬ仕事です。 普段通り荷物を積み込み、これで終わりかと思った矢先、 積み残された荷物が一つ、そこにぽつりと。 幸い発車前に気づき、慌てて駆け寄り積み込んだのですが――その瞬間。 ……ふわり、と。 列車が、揺れました。 (……妙だな) そう思った次の瞬間、私は気づきました。 列車が――走り出している。 確かに「積み残しがあります」とお伝えしたはずなのに…… なぜか、列車はすでに発車済み。 私は止めていただかねばと、先頭車両へと走り出しました。 ふと、車窓へ目を向けると―― 外から差し込む光が、いつもより青く揺れていて。 そこに広がっていたのは、草原でも街でもなく―― 青い星々の光に照らされた、見たこともない宇宙の風景でした。 私は思わず呟きました。 「……どうやら私は、とんでもない場所へ来てしまったようですね」 それでも、もしかすると帰る術があるかもしれない。 そんな淡い期待を抱き、私は先頭車両へ向かいました。 普段走らないものですから、息も絶え絶えでして。 己の体力のなさを呪いながら、なんとか走り抜けた先には―― 誰も、いませんでした。 代わりに置かれていたのは一枚の紙と一本のペン。 そこには綺麗な文字で、こう記されていました。 「貴方は【時空運送列車の車掌】に選ばれました」 正直に申し上げますと―― 「……ええと。どっきり、でしょうか?」 と思いました。 これが現実であるはずがない、と。 続けて、こうも書かれていました。 「【時空運送列車の車掌】となることに同意しますか?」 普通なら笑って終わりにしていたでしょう。 ……私も、そうするつもりでした。 ですが、あまりに疲れ果てていたせいでしょう。 それに、仕事もなかなか上手くいかず……少しだけ投げやりになっていたのかもしれません。 「どうせなら、せめて面白い方へ。」 そんな気持ちでペンを取り、私は書きました。 「同意いたします」 次の瞬間。 身体に、確かな変化が訪れました。 煤けた作業服は、仕立ての良いクラシカルな制服へ。 袖を通した瞬間、私の中へ流れ込んできたのは―― “時空”そのもの。 ……不思議なことに、すぐ理解できました。 この力で、私は“行くべき時”“在るべき場所”へ、列車を導ける。 そうして私は―― 時空運送列車の車掌となったのです。 ある時はお菓子でできた国へ。 ある時は水面だけで構成された都へ。 終わらぬ戦場へ向かうこともあれば、誰かの懐かしい故郷へ人を送り届けたこともありました。 そして今―― 戦いも止み、こうして穏やかに語らう時間がございます。 ついつい長話をしてしまいましたね。 お付き合いくださり、ありがとうございます。 では――そろそろ次のお客様のもとへ、参ります。 どうぞ、お気をつけて。 物語はいつだって、思いがけないところから走り出しますから。 またの乗車をお待ちしております。