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鍼灸師

ゴミクズの山。その麓に弱々しく泣き叫ぶ赤子がいた。まだ生後数日だろう。その声も聞こえなくなってきた時、1人の男が寄ってきた。男はその赤子を拾いなんの気まぐれか育てることにした。 一命をとりとめた赤子はすくすく育つがその目に光を宿すことは無かった。しかし、触るもの全てに興味がいく好奇心旺盛な性格に育ち、努力し、いつしか目が見えなくても普通までに暮らせるようになった。 仮親である男の仕事に興味を持ち始め聞いてみたが「鍼灸」と言う仕事をしてるらしい。だが、様々な勉強をしてきたが聞いた事が無い仕事に持ち前の好奇心が刺激され興味を持ち始めた。 針を身体に刺して治療すると聞いたが、当然理解できないずにいた。傷をつけでなぜ治療になるのだろう?と、不思議に思いながら男に教わりながら理解を深めていった。そうして数カ月がたち、目が見えないが美しい容姿の女性へと成長していった。 そんなある日の事、不思議な感覚を感じ始めた。この頃には見えなくても身体の構造を感覚で分かり触診により針を刺し違えることも無く普通に作業出来ていたが、この時患者の身体のどこに原因、病巣があるのかを触診する事なく瞬時に感じ取ることが出来るようになったのだ。 男が言うには一つの覚醒だと言い、一歩前に進めたと喜んでくれた。だが、それと同時にこの技を極めたいのならば覚悟しなければならない事があると言う。そして男は自分の過去を初めて話した。 なんと、男は別の世界から召喚された転移者だと言う。日本と言う国で「鍼灸」を仕事にしていた家族と暮らしていたが、とある国に召喚され、力を貸してほしいと言われ協力したと言う。自分も鍼灸を習っていたことから回復のスキルに昇華せて活躍していった。 当然終われば帰れると思っていたが、後出しで帰る方法が無いと言われ、裏切りと絶望に打ちひしがれた。そして、その力を死のスキルに変え復讐に使い王族のみ討ち取りその国を出て今いる果ての地に住み着いた。 男の教えた技は救うことも出来るが、極めれば逆に命を刈り取る事も出来る両刃の技なのだ。 だが、その話を聞いても決めていたらしく、この技を極める事を決意していた。 男は血の繋がらない他人だが、自分にとっては唯一の父であり師匠なのだから受け継ぎたいと言った。男は苦笑しながらも観念し、娘は技を極めたのだった。 その後、娘は世界を旅する事を決めた。この技を使い世界の不幸を和らげたいと思うようになった。 男は娘に一つの小箱を渡した。それは、かつて自分が使い血に染め封印していたかつての相棒。名を「四神の針」と言う。お前なら間違わずに使えようと娘に託した。 そして、愛する父から離れ一人旅が始まった。これからは「鍼灸師」と名乗り世界の不幸に立ち向かおう。こうして命を落としていたかもしれない赤子は立派に育ち後の歴史を作ることとなる。 だが、それはまた別の話……