【概要】約1300年前から生きている魔王(魔族は不老のため体は若いまま)。 多くの人々に絶望を与え、大量殺戮を始めとする、ありとあらゆる鬼畜の所業をした全ての元凶である。 しかし、彼は被害者妄想が激しいため、「仕方なかったのだ。私は悪くない」と歪んだ解釈をし、全く反省していない。 不滅であるため、実質的に彼の殺害は不可能(しかし、封印は可能)。 少しでも不審な行動を取ったら、側近でもすぐ殺す虫程度の倫理観であり、味方でさえも彼の前では何を言われても、恐怖から従わざるを得ない。 しかも、彼は計画性が非常に高く、死ぬこともない殆ど完璧な存在(自称)のため自分以外をあまり信頼していない(お気に入りでも常に監視している)。 その尋常ではない警戒心によるストレスが蓄積されたことで彼は白髪である。 400年前に彼は勇者に封印されたが、今は魔王軍幹部のリヴァイアに封印が解かれ復活している。 狂人の集いである魔王軍の中でも一番狂っているが、好みの部下はで「命令に忠実なイカれた強者」である。 それに最も近い魔王軍幹部には信頼されており、彼が最も警戒を解いている人物である。 嫌いなタイプは、弱者や忠誠心の低いものである。 また、実力至上主義でもあり、実力のないものは、暇つぶしで殺すという徹底的なイカレぶりを毎日発揮している。 彼が存在するだけで、彼の異常とも言える無尽蔵の魔力によって、世界が歪み、色々な異世界から化物が現れるため、敵にはかなり嫌われている。 また、彼は異世界から指定した魔物を意図的に呼ぶこともでき、 村を滅ぼすことも可能で実際に彼は虚構の村を襲わせた張本人である(だから、リヴァイアがいたのだ!)。 しかも、異世界を自由に移動することができる(しかし、魂だけで移動するので、死ぬこともないし、人を殺すことも出来ない)。 実はこいつも異世界転生者で、「地球」という故郷に馴染みがあるのか、一年に一回は地球の世界に移動し、地球の文化を楽しんでいる。 そのせいか、特殊なもの以外をコピーできる魔界の魔術によって魔界には地球の料理が普及している。 文化人でもあり、魔界では現地や地球の骨董品を嗜んでおり、常に新しいことを常に取り入れ続けている。 好物は美味しい料理全般で主に地球料理を愛している(魔界料理と地球料理を合わせることもある)。 酒は美味かったら飲むが、「いつ襲撃されるか分からない」と常に警戒心が過剰なため、少ししか飲まない。 基本的に殆どの魔族(彼も嗜む)は煙草を嗜むが魔族の特異体質(魔界に煙草を取り入れた時に彼が追加した)により、健康に害を受けることはない。 ちなみに、彼がわざわざ人間をスカウトして魔族に変え、仲間(という名の駒)を増やしている理由は、いくつかある。 まず、完璧な支配のためだ。奴は誰も信用しないが、世界を支配するには手足が必要。だから、人間を魔族に変えることで元の繋がりを断ち切り、恐怖で縛り付けた「絶対に裏切らない部品」を自ら作り出しているのだ(お気に入りの「命令に忠実なイカれた強者」はこの最たる例というわけだ!)。部品なら、壊れたらまた作ればいい、程度の感覚だろう。 次に、徹底的な実力至上主義の現れ。弱者はゴミ同然だが、たまに見込みのある人間(並外れた精神力や狂気を秘めた奴)を見つけると、魔族という「より優れた存在」にしてやる(本人にとっては、これが慈悲であり選別なのだ!)。価値のない弱者とは違う、特別な存在にしてやっている、とでも本気で思っているのだろう。全く、救いようがない。 さらに、究極の暇つぶしでもある。1300年も生きれば大抵のことは退屈だ。人間が魔族の力を得てどう壊れ、どう歪み、どんな絶望を見せるのか観察するのは、最高の「実験」であり「娯楽」なのである(まさに狂人の愉悦)。 結局のところ、彼が仲間を増やすのは、その異常な支配欲、イカれた選民思想、反吐が出るほどの悪趣味な娯楽、がグチャグチャに混ぜられた結果なのだ。そうやって、彼は今日も自分の狂気を世界に撒き散らし、悦に入っているのである。 【過去編】 第一章: 厄災の胎動 陽の光すら、まるで地表にこびり付いた泥を照らし出すかのように鈍く射す。 ここは、大和の都からはるか遠く、名もなき寒村。土と汗、そして諦めの匂いが染みついた土地だった。その村に、太助という名の少年がいた。 「……太助」 己の名を心で呟くだけで、吐き気が込み上げる。泥に塗れた自分の境遇を、そのまま表すような響き。彼はそれが、たまらなく嫌だった。 物心ついた時から、硬い土を耕し、作物の世話をする毎日。他の子供たちが土くれを投げ合って笑い声をあげる中、太助はひとり、空を見上げていた。あの空の向こう、霞む山の稜線の先には、きっと違う世界があるはずだ、と。 年に数度、村を訪れる役人や旅人が、彼のその想いを現実味のない憧れへと変えた。彼らが纏う、土の色とは違う鮮やかな衣。何やら難しいことが記されているらしい木簡。腰に下げられた、冷たい輝きを放つ鉄刀。そして、時折語られる都の華やかさ、異国の珍しい品々の話。 彼は生まれつき賢かったので、それらを周りの子供と違い深く理解し、興味を示した。 それら全てが、太助の目には、手の届かない「文化」という名の星のように映った。 特に、旅人が見せる異様な模様が描かれた布や、不思議な文字が刻まれた小さな木片は、彼の幼い心を強く惹きつけた。 「俺も……いつか……」 だが、呟きは風に掻き消される。農民の子は農民。文字一つ読むことを許されず、美しいものなど、夢のまた夢。 「身の程を知れ」「畑を耕すのがお前の仕事だ」 親の言葉は、冷たい現実を突きつけるだけ。周囲の大人たちの目は、憐れむでもなく、ただ「それが定めだ」と語っていた。 諦めろ、と。 だが、太助は諦めなかった。代わりに、彼の心は静かに、しかし確実に歪んでいった。 (なぜ、俺だけがこんな場所に? なぜ俺の価値がわからない? これは定めじゃない。悪いのは、俺をこんな泥の中に縛り付ける、こいつらだ。この世界そのものが、間違っているんだ! いつか、見返してやる。この愚かな世界を、俺の足元に跪かせてやる!) 被害者意識という名の黒い種が、彼の心に根を張り、芽を出し始めた。努力で現実を変えようとする代わりに、彼は他人を、運命を、世界を呪うことを選んだのだ。そして、その呪いの矛先は、彼を蔑む村人たちへと徐々に向けられていった。 第二章: 凶兆 ある秋の日、村に一人の行商人がやって来た。行商人は都で仕入れたという品々を得意げに広げた。勾玉、織物、そして――小さな銅鏡。繊細な文様が縁を飾り、磨き上げられた鏡面は、周囲のくすんだ風景とは不釣り合いなほど、清らかな輝きを放っていた。そして、その荷の中に、太助の目を奪う一冊の古びた書物があった。見慣れない文字で綴られ、挿絵には奇妙な生き物や風景が描かれている。それは、かつて旅人が語った異国の文化を彷彿とさせた。 太助は、吸い寄せられるようにそれを見つめた。 (あの鏡面になら、泥に汚れた自分ではなく、本来あるべき「高貴な自分」が映るのではないか。あの書物には、この退屈な世界とは違う何かがあるのではないか。もしかしたら、この書物の中に、俺がずっと探し求めていた『何か』が書かれているのかもしれない……) そんな強い予感にも似た感情が、彼の胸を締め付けた。「……欲しい」喉から絞り出すような声が出た。強烈な、焼け付くような渇望が全身を貫く。 しかし、買えるはずもない。行商人はその夜、村の長者の家に招かれ、泊まることになった。 月も隠れた闇夜、太助は息を殺して長者の屋敷に近づいた。(あれは、俺のものになるべきだ。価値のわかる俺こそが持つにふさわしい。農民だからと諦める必要などない。この世界は、俺のような人間をいつまでもこの場所に閉じ込めておくつもりなのか? だとしたら、俺は自分の手でそれを壊すしかない。あの書物こそ、俺をこの泥沼から救い出してくれる唯一の希望かもしれないのだ!) 歪んだ焦燥感が、恐怖を上回っていく。彼は音もなく屋敷に忍び込み、行商人の寝所を探った。荷の中に、鈍く光るものを見つける。銅鏡だ。そして、その傍らに、あの古びた書物もあった。 手を伸ばし、掴みかけた、その瞬間。「こ、こらっ! 誰だ!」 眠りの浅かった行商人が、太助の腕を掴んだ。しまった、と思った瞬間、太助の思考は冷たく切り替わった。恐怖ではない。この男は、俺の唯一の希望を奪おうとしている。邪魔だ、と。ただそれだけだった。 咄嗟に、壁に立てかけてあった鍬を手にする。重い鉄の塊が、彼の小さな手にずしりと馴染んだ。振り上げた腕に、躊躇いはなかった。この男を排除しなければ、俺は永遠にこの泥の中で生きるしかないのだ。振り下ろす。鈍い音。抵抗する声。「お前のような小僧が……!」さらに振り下ろす。何度も、何度も。生温かい何かが顔に飛び散る感触にも、彼は眉一つ動かさなかった。ただ、目的の物を手に入れるために、邪魔な「存在」を排除しているだけだった。 やがて物音は止んだ。荒い息をつきながら、太助は行商人の手から銅鏡と書物をもぎ取る。冷たい金属の感触。初めて人を殺めたというのに、彼の心を満たしたのは、罪悪感ではなく、奇妙な熱を持った高揚感と、自分が何でもできるかのような万能感だった。そして、手に入れた書物を開くと、そこには見たこともない異質な文字が並んでいた。意味は全く分からなかったが、彼の心は強く惹きつけられた。 (そうだ、これでいいのだ。欲しいものは奪えばいい。邪魔者は殺せばいい。俺は、こんな泥の中に埋もれているべき人間じゃない! いつか、この書物に書かれた世界へ行ってやる! そのために、この男は消えるしかなかったのだ!) 銅鏡と書物を懐に隠し、彼は闇に紛れてその場を去った。翌朝、村は行商人の死体発見で大騒ぎになった。 太助も疑われたが、証拠はない。だが、村人たちの目に宿る猜疑の色は、彼の内に新たな憎悪の炎を燃え上がらせた。 (やはりこいつらが悪い。俺の真価を認めず、泥棒か人殺しのように俺を見る。こんな奴ら、生かしておく意味もない!) もはや彼は、ただの農民の少年ではなかった。血の味を知り、歪んだ万能感と、未来への僅かな希望に縋り付く怪物が、そこにいた。 しかし、行商人を殺したのを彼の両親が見ていたことは誰も知らなかったのだ…… そう、彼の両親は夜中に一人で歩いていく息子をコッソリと追跡していたのだ 第三章:罪と罰 太助は、何事もなかったかのように、夕暮れ迫る中を家へと戻った。土と埃にまみれたいつもの姿。 しかし、両親の目は、その奥に隠された異様な静けさを見逃さなかった。 夕食時、食卓には重苦しい空気が漂っていた。 普段は他愛ない話をする両親も、今日は言葉少なだ。太助は黙々と食事を口に運ぶ。まるで、昼間の出来事が嘘だったかのように。 太助は顔を上げ、父親を見た。その目は、どこか冷ややかで、いつもの素朴な少年とは違う光を宿しているように見えた。 その光が2人に彼が殺人をした事を確信させたのだ。 三人は狭い部屋の隅に座った。 父親は震える声で、「太助が……商人さんを殺ったのか……!」と半信半疑で太助に聞いた。 母親は顔を歪め、涙声で訴えた。「嘘よね……。あなたは殺人なんかしない子よ!あの人は、私たちに何も悪いことをしていないのに!」 太助は冷淡な声で言った。「邪魔で、仕方なかったんだ。欲しいものがあった。それだけだ。」 父親は愕然とした。「邪魔……? 人の命を、そんな風に考えるのか!」 「あんな連中、生きていても仕方がないだろう。俺の価値もわからない、愚かな人間だ。」太助の言葉は、両親の胸に突き刺さった。それは、彼らが知っていた優しい息子の言葉ではなかった。 その夜、夫婦は寝床で何度も話し合った。太助の言葉、彼の冷酷な表情が、二人の心に重くのしかかっていた。 「どうしよう……あの子は……」母親はすすり泣いた。「本当に、人を殺したなんて……」 父親は深い皺を刻んだ顔で、天井を見つめた。「村人に知られたら……太助はどうなる? 私たちも……」 愛する息子を思う気持ちは痛いほどわかる。しかし、同時に、彼らが育ててきた息子が、人の命を奪うような人間になってしまったという事実に、深い絶望を感じていた。 夜が更けるにつれ、二人の心には別の感情が湧き上がってきた。それは、恐怖だった。太助の言葉の端々に感じられる、常軌を逸した考え方。もし、このまま放っておいたら、彼はまた同じことを繰り返すかもしれない。村の他の人たちも危険に晒されるかもしれない。 そして、良心の呵責。行商人は、何の罪もない人間だった。その命を奪った太助を匿うことは、正しいことなのだろうか。村人たちに真実を隠し続けることは、彼らを欺くことになるのではないか。 朝になり、東の空が白み始めた頃、夫婦は重い決断を下した。 「あなた……」母親は、憔悴しきった顔で言った。「私たちは……間違ったことをしてはいけない。」 父親は静かに頷いた。「ああ。太助は……もう、私たちの知っている子ではないのかもしれない。」 二人は、震える足で家の外に出た。朝日が、彼らの不安げな表情を照らし出す。 村人たちがそれぞれの仕事に向かう中、夫婦は覚悟を決めて、村長のもとへと向かった。 「村長さん……大変なことが……実は……」 彼らの口から語られる言葉は、信じがたいものだった。 愛する息子が犯したかもしれない殺人。その事実は、静かな村に大きな波紋を広げることになるだろう。 夫婦の心は、息子への愛情と、村人への申し訳なさ、そしてこれから起こるであろう事態への不安で、複雑に揺れていた。 しかし、彼らはもう、後戻りすることはできなかった。 結果、犯行は露見し、太助は追われる身となった。村を逃げ出し、山中を彷徨うことになった。 その裏切りが彼の警戒心を異常に引き立てた。 彼の両親は愛があった。両親は不作でも飯を食わせてくれた。喧嘩で負けても慰めてくれた。 現実を突きつけながらも、優しくしてくれた。 彼はそれを心の奥底で少し信頼していたのかもしれない。 「俺は悪くないのに……!親なら普通バラさないだろ!」 飢えと孤独、そして親への憎悪が、彼を追い詰めていく。 そんな中、彼は追っ手を撒くために、敢えて危険な獣道を選んだ。そこで足を滑らせ、深い谷底へと転落して死亡した。 転生者は、異世界転生時には業に見合った能力を必ずもらう。 彼は真っ白の世界で死神と出会った。 知らない人も多いが、死神は転生者に能力を与える仕事もする。死神は彼に力を与えた。 【不老】。ただ年をとらないだけの権能。彼は自分を罵倒されたような気がして、余計に怒りが増した。 次に意識が戻った時、そこは見知らぬ世界だった。 多くの熔岩やゴツゴツとした大地。ボロボロの洋風の城。彼は後に知ることになるが、そこは魔王の住む魔界だったのだ。 彼は当初は頼りない肉体のままだったが、彼の内に渦巻く憎悪と渇望は、 彼を待つかのように溜まりに溜まった無尽蔵の淀んだ魔力と恐ろしいほどに共鳴した。 その共鳴によって起こった強烈なエネルギーが彼の血を特異な魔族を増やせる血に変え、身体能力を大幅に上げた。 その中にはかつて勇者に殺された大昔の魔王の魂もあった。その魂は彼の底しれない負の感情に反応して自身の権能を彼に与えると共に彼の魂に入り込んだ。 その権能の一つが【不老】と繋がり、【不老不死】へと進化したのだ(即ち、彼の魂に入り込んだ魔王の魂と分離すれば殺せる。方法は不明だが…)。 そして彼は、忌まわしい過去と共に、その名を捨てた。 「……太助、だと? フン、泥にまみれた名はもういらん」 彼は自らを「磐井ハルト」と名乗った。「磐井」は、故郷で反乱を起こしたという豪族の名。それは、彼にとって既存の全てへの反逆であり、自らが新たな支配者となることの宣言だったのかもしれない。「ハルト」という、どこか異国の響きを持つ名は、権能を授けた魔王の名前。 魔王の魂が彼の体に入ったことで、魔王の記憶も覚えたのだろう。 それは、彼が歪んだ形で憧れた「文化」や「洗練」を気取るための、そして、故郷とは違う新たな世界での始まりを意識するための、空虚な飾りだった。 力を得た磐井ハルトは、解き放たれた獣のように、この異世界で暴虐の限りを尽くし始めた。邪魔者は殺し、逆らう者は滅ぼし、気に入ったものは奪う。行動原理は、あの古墳時代の農村で、鍬を振り下ろした時と何ら変わらない。ただ、その力が、比較にならないほど増大しただけだ。そして、彼は配下を集める中で、ただ強いだけでなく、自身の命令に絶対的に従う狂気を秘めた者たちを好むようになっていった。 やがて不老不死の力さえ手に入れた彼は、その称号を鼻で笑いながら受け入れた。自分こそが頂点であり、完璧な存在なのだから、当然だと。そして、彼は時折、故郷の世界に似た、しかしどこか異なる世界を感じることがあった。それは、彼がかつて手に入れた書物に描かれていた世界と近いのかもしれない、と彼は漠然と思った。 こうして、古墳時代の貧しい農民、太助は死んだ。そして、異世界に最悪の魔王、磐井ハルトが誕生した。かつての文化への憧れは、彼の巨大な自己愛と、世界への復讐心を正当化するための、そして、異世界での新たな自己を飾るための、歪んだ形で昇華していった。彼の物語は、共感も、同情も、救いも拒絶する。