その者、かつては蒼の理に連なりし者なりき 果てなき蒼天の彼方、万象を統べる理の座に在りて、確かに名を持ち、確かにその存在を許されてゐた されど或る日、その者は禁を侵せり 何を為し、何を失ひしやは、今となりては誰も知らず。 その罪は記録より削がれ、その名は蒼より消し去られたり 蒼は彼の名を呼ぶことを許さず。 蒼は彼の帰ることを許さず 故にその者は名を失ふ 過去を失ひ、居場所を失ひ、ただ罪のみを抱へて蒼の外へと逐はれたり 残されたるは白晶と化したる両の腕のみ ひび割れし結晶の奥より零るる蒼き塵は、かつて蒼の理に在りし証にして、永劫に消ゆることなき枷なり 現世を彷徨へど、彼を知る者はなし。 呼ぶべき名なく、語るべき過去なく、待つべき故郷もなし それでもなお歩みを止めず。 蒼を憎むが故にあらず。 蒼を忘れ得ぬが故なり 失はれし名の欠片を求めるが如く、 失はれし記録を辿るが如く、 今日もまた大太刀を携へ、終はることなき旅路を征く いつの日か奪はれし名を取り戻すためか あるいは その名すら思ひ出せぬまま、果てへと至るためか