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『回復の魔法少女』癒華 捧(ゆのはな ささげ)

 ー世界樹の下にはそれはそれは恐ろしい化け物が住み着いているんだそうな。 その化け物は世界樹を一人占めするかのように其処から一歩たりとも動かず、今日も世界樹からの直接の恩恵を受け続けているとか。だから世界樹に近付こうなんて絶対に思うんじゃねえぞ。ー 「そんな、そんな馬鹿な事があってたまるかっ……!!」 世界はどうしてこんなにも無慈悲なのでしょうか。 私達は勇者様と共に遂に魔物の王を打ち倒し、世界樹に蔓延る邪悪を払う事が出来たのです。 これで世界樹からの恩恵を取り戻し世界が平和になるはずでした。 しかしその肝心の世界樹が長年邪悪に晒され恩恵を搾取され続けた結果、世界樹はもうその命が尽きる寸前だったのです。 「やっと此処まで来たってのに遅かったってのかよ!?」 「もうどうする事も出来ないの?そんなの、あんまりよ……。」 「まだです!まだ何かしら復活させる方法がこの賢者の知識の中にあるはずなのです!!」 皆さんもこの理不尽に嘆いておられますね。しかし誰も諦めようなどと考えておられません。私も同じ気持ちです。 それに私には これをどうにかする方法があります。 「ひとつだけ、方法があります。」 「本当かい?!捧っ!!」 「はい、それは…「いけません捧っ!!その方法だけはっ……!!」」 「ありがとうございます。しかしもう時間が残っておりません。この方法に掛けるしかないと思うのです。」 「捧?その方法って…」 「私の能力の限界を一時的に取り払い、わざと回復の魔法を暴走させるのです。」 「え?それって」 「駄目だっ!そんなことをしたら捧はっ!!」 「えぇ、恐らく、いえ確実に、無事では済みません。」 「それ処ではありません!その方法を取ってしまえば貴女はっ……!!」 「やはり、そうなるのですね。」 「この方法を取ると過剰な回復力で枯渇しかけた世界樹でさえ徐々に復活させる事が出来ます。しかし徐々に、なので私は発動以降世界樹が完全に癒えるまで此処から離れる事が出来ません。そもそも限界突破して暴走した魔法による爆発的な消費と回復で私はすぐに正気を保てなくなるでしょう。」 「あ、安心して下さい。この身に『世界を癒し続ける』という誓約を立てますので正気を失っても回復を止める事は無いでしょう。」 「何処が安心できるって云うんだ!!」 「そうだよ!そんなん駄目だよ捧ちゃんっ!!」 「いえ確かに、もう、時間が残っていません。他の方法では時間が掛かりすぎるっ……!!」 「はい。考えようによっては神様から魔法を与えていただいた魔法少女が世界の礎になれるのです。これ程素晴らしい事は無いではありませんか。」 「だがっ!!」 「もう何を言っても無駄でしょう。彼女は既に覚悟を決めています。」 「そんなぁ…」 「……分かった、でも僕達にも出来るだけ最後まで手伝わせて欲しい。ありったけの魔力を君に送ろう。」 「…うん、そうだね。そんでパパーッて終わらせてさ、またいつか皆で集まろうよっ!」 「ふふ、そうですね。何十年後になるか分かりませんが「え゛そんなにかかんの?!いや待つ!絶対待つ!!」」 「うふふ、改めて私、皆さんの事が大好きです。」 「それでは始めます。」 遂に準備が終わり魔法を発動させる時が来ました。そういえば私が準備している最中皆さんお話されていましたが何だったのでしょう?はっ!集中集中。 「発動。」 発動と共に私の意識が徐々に薄れて行くのを感じます。 ……パキキッ…パキッ…ズズッ (あぁ、微かに、とても聞こえない程微かにですが世界樹の癒える音が聞こえます。) …パキばきっ… (多分何日かぶりに意識が戻りました。そういえばもう数ヶ月経ったと思いますが皆さん無事に帰りましたでしょうか。) ……パキッ…ずるぅっ…ぱきっ 「やはり、こうなりましたか。」 (あら、また来て下さっていたんですね。) パキキッ……ぼきぃっ… 「君が発動前に教えてくれた懸念が当たったね。大丈夫、捧の覚悟を無駄にしないように僕達で抑えよう。」 (?何の話でしょうか?) ずるっ…べちゃっ…パキッ 「あー!振り返っちゃ駄目だよ!集中集中!!」 (そう言われてもですね、最近視野が広がってもう後ろが見えそうに…) ぼこっ 『え?』(え?) (今、勇者、様の、あ、あた、頭が2つに) 「「ははっこんな事にもなるのか。」」 「いよいよですね、我々三人でしっかりと楔を打ち込みますよ。」 「大丈夫だよ捧ちゃん。私達が絶対他の命を守るからね。」 パキキッパキッ…ずるっ…ばきっ…ぺちゃ 『あぁ…うぁっ…』(あぁっ!!腕がっ足がっ生えてっ崩れてっ) 「そろそろお別れかな?といっても多分ひとつになるんだったよね?」 「そうですね、理論上は増えて崩れて混ざる事になるでしょう。」 「もう寂しくないよ捧ちゃん。これからはずーっと一緒だからね。」 『いぁ……めぇ…い…ぇ…』(いやぁ!!駄目いかないでぇ!!) ばきごきっ…ぼこっ……ぶくっ 「「いつかまた君の笑顔が見れたらいいな…」」 ぐちゅっ 『いぁ…』(いやっ) 世界はいつもとても美しく 『…ぇ…めぇ…』(駄目、駄目、) やはり、とても残酷だ 『……ぁああぁあぁああああぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!』 ー世界樹の下には昔から怪物がいる。 その怪物は時々自分の姿を思い出したかのように少女の姿をとって、ずっと泣きながら笑っているんだそうな。ー