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《老骨の槍士》ハロルド・バーンワース

人生は冒険である。 旅の中で味わうその土地々々の料理と酒、そして美しい女人との出会いほど素晴らしいものがこの世に他にあるだろうか? 槍を手に己が身ひとつで大陸を駆け回った人生に悔いなど微塵もないが、しかし彼はまだまだ冒険をし足りなかった。 ベッドの上で痩せ衰えて死ぬのだけは御免だと思っている。男の死に場所は広い空の下なのだ。でも美女と一緒ならベッドで死ぬのも吝かではないかもしれないな。うん。 酒の席で語る自らの武勇伝のストック数は相当なもの。 鉄板ネタはドラゴン退治。 これまでの人生で何体の竜を仕留めたか、もはや多すぎて思い出せないとまで嘯く。 なお実際に討伐した大半の個体は、至上の力と知恵をもつとされる幻竜種ではなく、蛇竜のような下等な竜種や火吹き蜥蜴など爬虫類種の魔物である。 最近のブームはとある国のお姫様との甘く切ないラブロマンス。 親の決めた結婚に強く反発していた小貴族の勝気なご令嬢と偶然知り合い、なんやかんやあって一夜の過ちを犯した若かりし頃の思い出を二百倍くらいに脚色して話している。