《 あらすじ 》 「シャトー・レプラント」は「ダンディ・ペペロンチーノ」を龍騎軍へと迎え入れ、去っていった。 ひとまず身分を手に入れたペペロンチーノは、即座に通達された作戦へと参加する。 それは「ヨトゥン侵攻作戦」だった。 _________ 明るく光る画面を前に、私は目を細める。 「全く、下等種族ごときになぜ......」 生きていくにはこうするしかない。 それは私の直観だった。 この世界に来た時からのある違和感。 『力が出せない。』 確実に何かしらの力が制限されているようだった。 いや、正確には制限というより、上限値をまるごと削られたような...... ”最初からこの程度の力しかなかった”とでも言われているかのような無力感だった。 間違いなく、星を渡る前の私なら、あの程度の敵に苦労することなどありえなかっただろう。 だが戦闘後に感じたあの疲労感は、間違いなく私の力がよわっていることを証明していた。 だからこそ、私が感じることのない感情......おそらく、これは恐れだったのだろう。 もしかしたら、相手によっては倒されてしまうかもしれないだろうから。 そんな後ろ向きの思いと裏腹に、煌々と......異常なほどに輝く「二つの月」を眺めながら私は招集先へと向かった。 ...... 巨大な樹。 あまりにも巨大なそれは、グラズスの空の2割を覆う葉を翳している。 聖樹とよばれるらしいその大樹の下に、龍騎軍の招集が行われていた。 ペペロンチーノは重い足取りで先へと進む。 「ようこそ、新たな星渡りよ。」 受付の龍は、小ぶりな翼を羽ばたかせながらこちらを見つめた。 冗長な手段を取りたくなかっただろう彼は、即座に 概要を聞き出そうとした。 「今回の作戦では星を落とす。」 「単純だ。貴様は戦い続けろ。」 「それだけ......か、君。」 「あぁ、単純だろう。わかったら行け、星渡りよ。」 私はわかっていた。 彼が星渡に期待などしていないことを。 「君、私が高貴なる吸血鬼だと......」 「すまない、星渡よ。」 「ここでは、前世界での身分など関係ない。」 「貴様には”星渡”として生きてもらう必要がある。」 そうか、この世界では元の私などもういない。 私を知るものは一人としておらず、その実力の証明もできない。 かつての私は、死んだも同然なのだろう。 その時、背後から声が聞こえた。 「よぉ!お前さんも星渡りか?」 ロングコートを纏ったその男は、瞳孔が白く染まっていた・ 「オレもちょうど招集があったところなんだ。」 「よかったら一緒にいこうぜ。」 先ほどのセリフを繰り返そうとして、私は思い出した。 そう、この世界では...... あきらめて口を開こうとしたとき、遠方から女の叫び声がする。 声のした方を振り返れば、身の丈の三倍以上ある大きな化け物が襲ってきているのが見えた。 それには住民と違い、明確な敵意......それも「この場の全員」に対する狂気を孕んでいることは明確だった。 狐のようなその化け物は、顔の半分ほどまで裂けた大きな口を開き、周辺のものを手当たり次第飲み込んでいる。 「おっと、ちょっと面倒なことになったみたいだな。」 彼は化け物を見据える。 だが、その姿勢には常に余裕があった。 「……人間、恐れはないのか?」 「逆に聞くが、あんたはあれが怖いのか?」 彼は笑いながら私に返す。 「当然だろう。あの程度、大したものではない。」 「私が......”偉大なる吸血鬼”であると証明して見せよう。」 瞬間、私は駆け出した。 周辺の景色がわずかに歪み、化け物の動きが鈍くなる。 狐はこちらに気付いたようだが、もう遅い。 化け物の懐に入りながら、半回転してさらに加速する。 丁度狐が振り返ったとき、私はその首元にいた。 思い切り右腕を掛け、ラリアットを掛ける。 狐の首から快音が鳴り響き、後ろ向きに勢いよく飛んでいく。 背後のレンガは粉々に砕け、狐は分解され消えていった。 すぐさま警備が回り、周辺の閉鎖を行い始めた。 「ありがとうございます!急に暴れだして......!」 先ほど叫び声を上げた龍だろう。 彼女は感謝の言葉を告げると、足早に戻っていく。 ある程度の喧騒が収まった後、先ほどの男が話しかけてきた。 「あのレベルの錬成生物を一瞬で潰すか......」 「へへっ。やるじゃねぇかアンタ」 笑みを浮かべながら、彼は言う。 「稀に見る”強者”ってところかな?」 「オレはs'7、よろしくな!」 「私の名はダンディ・ペペロンチーノ。以後お見知りおきを…」 「その感じ、前の世界では上位種族だったっぽいな。」 「ま、お前さんと一緒なら、作戦もうまく行きそうだ。」 彼は微笑んで手を差し出す。 きっと数刻前の私なら、払いのけた手だっただろう。 だが、今の私は少し変わっていた。 「早く行くぞ、人間。」 「そんだけ急いでもいいことないぜ?」 ...... ヨトゥンの星は醜かった。 焼け焦げた地表、常に赤い空。 無数の鉄くず...... よく考えれば、彼が最初に落ちた星も似たようなものだったかもしれない。 あの星を超える異形の量。 それを追撃する「異形の龍」。 この戦争は、本当に醜い。 「なぁ、お前さんは"終わりのない命"についてどう思う?」 そうだ、この世界の命は死んでも終わりではない。 また同じ魂で、生き続けることになる。 「恒久に戦い続けられるのだろう?」 「良いことだと思うが......人間は違うと?」 「さぁな。」 その質問の意図は、まだ私には読めなかった。 「そろそろ本命が来るぜ。構えろ!」