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四百輪の薔薇

観察日誌 観察レベルⅠ 酷い血の匂いだな。ひと目見たところ、平凡の薔薇のように見えるが…。 花びらの隙間にある、あの沢山の目。私はあの目を見たことがある。血に飢えた家族達から見られた、あのギラついた、ねっとりとした欲望の眼。何かを殺そうとか、害そうとしているわけじゃない。あれはただ単に…血を渇望しているだけだ。あの花も、過去はこのような怪物ではなかったのだろう。血を宿しに宿し、やがて満足できなくなっただけなのだろう。 …はぁ。あの小さき者に憐憫を抱く前に、まずは私の立場を顧みる方が良いだろうが。ふむ。動きを見るに…。予想されるのは、あの蔓を振り回す攻撃か? しかし、そんな単純な攻撃であれば、大した問題にはならないだろう。そうだな。あの紅い花びらが血を吸ったのなら、血を用いた攻撃も考えられよう。これをごく自然に、管理人殿へ伝え― …待て。これはも、もしや既に記録されているんじゃ…ありませぬか? ファ、ファウスト君!誤ってボタンを押してしまったので聞きまするが、もしやこの記録を破棄して新たに書き直すことは― ファウスト → 妥当な事由があれば可能です。 ドンキホーテ→ おお!では頼み申す!録音にて記録を残すのは初めてゆえ、つい些細な過ちを犯してしまったのでありまする。 ファウスト → 妥当な事由ではないので棄却します。当該記録はそのまま維持しても問題なさそうですね。 → (ドンキホーテ残した数十回の再記録要請の下に、ファウストがひとつひとつに却下の文言を書いている。) 観察レベルⅡ じ~~つに激烈な戦闘であったぞ! あれは我らに傷を負わせんと血眼になっておったぞ! 周囲の血を啜り、それを我らへと撃ち放つ様を見れば…地に流れる血を養分として戦うものに相違あるまい! さればこそ、皆も血を与えてはならぬと悩んだことであろうが…このドンキホーテが、奇抜なる一計を案じたのである! ふふっ。聞いて驚くでないぞ…。あれはな…血を飲めば飲むほど、穏やかになるのだ! すこぉしばかり頑丈にはなるが、我らの仲間が負傷することなく、かの悪しき幻想体を裁く絶好の機会ではなかろうか! どうであろう?素晴らしき情報ではなかろうか? イシュメール → 血を飲ませれば飲ませるほどなんか…ずいぶん頑丈になってる気がするんですけど。 シンクレア → そうですよね。い、いっそ血を与えず、さっさと討伐するのはどうですか…? ムルソー → うむ。だからといって、血を与えないと凶暴化することも確認されている。 グレゴール → ふむ。それなら適度に食べさせてやろうって、適度に。毎回血をやるのも痛かったし、良かったじゃないか。 観察レベルⅢ ふむ…適度に血を与えようというグレゴール君を言うとおりにすると、その後はかなり順調であったぞ。ああ!もちろん我、ドン・キホーテも討伐の助けとなる重大な情報を発見したのである。あの薔薇は頭! 頭こそが弱点である! つまり、あの花弁よ! 見たところ、頭を砕けば血を飲むのにも難儀する様子であったぞ! あの胴体を攻撃すればこちらも傷を負うことになり気掛かりであったが、実に好都合ではないか! 攻撃のたびに全身の傷が弾けることを減らすことができると自負しておるぞ。 ふふ…もはや、あの薔薇が当人の討伐リストに記されるのもそう遠くないであろう! あぁ、それから…これを読んでおるファウスト君に、重大なるお願いが一つあるのだが…。この戦闘が終わったらな…。最初の記録を修正できるようにしてはくれぬか…? ファウスト → 想像以上にしぶといですね。26回目になりますが、不可です。 イシュメール → 最初の記録も、なかなか良かったと思いますけど?私は、むしろそちらの方がまだ報告書としては適切だったように思いますけど。 ロージャ → 私はこっちの記録の方が100倍は良い思うけどね。イシュやファウみたいに、す~っごく真面目に書き過ぎるのはつまらないでしょっ。 イシュメール → いや…報告書は真面目に書くべきじゃないですか?まあ、ドンキホーテさんはまだ普段から割とまめに記録されている方かとは思いますけど…。 ドンキホーテ → うぅむ?2人とも何を申しておるのだ?当人の記録はいつも同じであるぞ! ロージャ → ドンキ…ファウが消してくれないから、忘れることにしたの…? イシュメール → …その、頭隠して尻隠さずの性分は、記憶が戻っても変わらないんですね?