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MLv134《焼鳥の魔法少女》三平美月

 美月の家は、焼き鳥が名物の居酒屋。  お店はいつも賑やかで、忙しい日は美月もお店の片付けを手伝っていた。常連のお客さんにも可愛がられて、美月もその賑やかな雰囲気が好きだった。  親戚のお姉さんがバレエ教室をやっていた影響で、美月はバレエを習う事になった。生まれつきしなやかな体と運動神経の良さで、上達も早く、発表会では主役になったりもした。  だけれど成長するにつれ、バレエ教室の同世代の女の子達が美月の才能に気付き、いじめを始めた。  「ドレスが焼き鳥くさい」「白鳥が焦げてる」「ガリガリでまずそう」  そんな刺々しい言葉から守るように、バレエ教室の年上のお姉さん達が美月と仲良くしてくれるようになった。  美月が明るい性格のままでいられたのは、たくさんの優しい大人達に囲まれていたことに加えて、部屋に並べてあるぬいぐるみ達とお喋りする時間があったから。  中でも一番のお気に入りは、お店のお客さんから貰った赤い鳥のぬいぐるみ。日課のストレッチをしながら、その赤い鳥のふわふわした体を撫でたり、ちょっと間抜けな顔に向かって、愚痴をこぼしたり嬉しかった事を話したりすると、心も軽くなった。いつか大きなステージに立って、世界中の人に自分のバレエを見て貰えるようになろう、美月はそう思いながら練習を続けた。  だけれどバレエの世界は残酷で、才能がない者は次々と振り落とされていく。仲良くしてくれていたお姉さん達も、ちらほらとバレエ教室を辞めていった。その代わり、いじめは学校にも広がっていく。学校の宿題が増えて、お店の手伝いをする事もなくなり、美月は次第に孤独になっていった。  そんな日々でも、赤い鳥のぬいぐるみはいつも美月の味方で、ずっと美月の側で応援してくれていた。  夢見た場所とは違うけれど、美月は今日も、赤い鳥と共に踊り続ける。