男はとても“退屈”だった。 19XX年、誕生。 名も知れぬ辺鄙な村の隅で、彼は産声をあげた。 その場にいた人々は、後に語る。 『その声は、まるで地獄から来た悪魔の声だった』と。 その声を赤子の父は、あまりの恐怖に恐慌。 彼を“呪いの子”と呼び、殺そうと鉄の鍬を振り下ろす。 しかしそれは、彼を殺すに至らなかった。 彼は、臍の緒も切れぬうちに、実の父を素手で殴り殺す。 彼が最初に口にしたのは、大きな欠伸であった。 それから、彼は求めた。 自らの“退屈”を終わらせる相手を。 森を荒す暴れ熊。 山を跨ぐ大マダラ。 大海を薙ぐ人食い鮫。 決して止まらぬ暴走機関車。 法の番人たる警察群衆。 国を守護する鉄攻連隊。 降り注ぐ核弾頭。 その全てが、彼を殺すに至らなかった。 欠伸を、止めるに至らなかった。 地球を侵略しに来た異星の民さえ、彼を殺せなかった。 そこで彼は気づいてしまった。 自分は“最強”なんだと。 この“退屈”は、終わらないのだと。 彼は絶望し、嘆き悲しみ、 そして祈った。 もし神がいるのなら この“退屈”を、終わらせてくれと。