魔獣から民を護る、西方諸国最強の対魔獣組織、“氷鉄騎士団”。その若き女団長である彼女は、周囲から“氷面”と称される程表情を変えない。 彼女には仲のいい妹がいた。 二人の仲はとても良く、どんな時もいつも二人で遊んでいた。 ある日、近くの森で遊んでいると、妹が小さな魔獣を連れてきた。 彼女は魔獣を警戒したが、妹に懐いているような仕草と、愛らしい姿に警戒心を解き、それを見逃す。 しかし、それがいけなかった。 どんな姿をしていようと魔獣は魔獣。 小さな魔獣は途端に姿を変え、妹へと襲いかかる。 彼女はそれに気付き、慌てて覚えたての氷魔法を放った。 制御しきれない氷の波は、自らの右手ごと周囲を一瞬で氷に変える。 気が付いた時、目の前にあったのは凍り付いた魔獣と、凍傷に泣く妹の姿。 未熟な氷は、妹を傷つけたのだ。 幸い命に別状は無かったものの、妹の顔には凍傷の痕が残る。 以来、彼女は笑う事ができない。 妹の危険を見抜けなかった、己の甘さが。 妹を守りきれなかった、己の無力さが。 妹に消えぬ傷を付けた、己の未熟さが。 彼女の“顔”を、“心”を凍えさせる。 氷は、未だ溶けない。