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【灼熱の憎腑】焔 緋那(ほむら ひな)

〜プロローグ〜【感情を司る神】 神話がまだ、空の星々よりも身近だった頃。感情の神は、誰よりも深く、誰よりも純粋に世界を愛していた。しかし、彼が唯一愛した伴侶を他の神々に奪われたとき、その慈愛は最もどす黒い憎悪へと変色した。 ​「全て、焼き尽くしてしまえ」 ​彼は自らの胸を裂き、鼓動し続ける心臓を業火の中へと投げ入れた。 それはあらゆる「感情」を燃料として燃え続ける遺物——【業火の心臓】。 感情を増幅させ、絶大な力を与える代わりに、最後には宿主を灰へと変える神の呪いある。 ​〜時は現代へ〜【業火の心臓】継承 ​「あの子は、化け物よ」 母の冷たい拒絶が、今も耳の奥にこびりついている。 緋那は幼少期から「感情が強い子」だった。喜びも怒りも、普通の子供の10倍は強く感じ、泣けば自分を傷つけ、怒れば他人に当たる。それが原因で家族は崩壊した。 母は耐えきれず家を出ていき、父は自責の念で自らの命を絶った。 ​「私の心が、みんなを壊したんだ」 ​それ以来、緋那は感情を隠して暮らすようになった。 心を分厚い壁で閉ざし、息を潜めて生きる。親戚の家で厄介者として過ごす憂鬱な日々が過ぎていった。 ​季節は冬。緋那は誰もいない居間で、古いストーブに当たっていた。 青白い炎が揺れている。いつもなら、その熱を恐れて距離を置くはずだった。しかし、その日は違った。 ​「……熱く、ない?」 ​指先をストーブの天板に触れても、皮膚が焼ける音はしても、痛みを感じない。 代わりに、胸の奥からせり上がってくるのは、かつて封じ込めたはずの濁流のような感情。 誰かに愛されたかった。 お父さんに生きていてほしかった。 お母さんに抱きしめてほしかった。 ​ドクン、と鼓動が跳ねた。 ​「あ、ああああああ……ッ!」 ​凄まじい熱量が胸部から爆発した。皮膚が内側から裂け、そこから溢れ出したのは、光を吸い込むような漆黒の炎。 それは神話の時代から巡り巡ってきた、神の憎悪の欠片。 ​【業火の心臓】が継承された瞬間だった。 その刹那、緋那の頭の中に、失われた神の記憶が流れ込んできた。愛を奪われ、絶望の果てに自らを焼いた神の孤独。 ​「……そうか。あなたも、寂しかったんだね」 ​緋那はゆっくりと立ち上がった。 燃え上がるようなその瞳は、もはや少女のものではない。黒い炎が揺らめき、涙が蒸発していく。 ​力を得た。世界を焼き尽くせるほどの、強大な力を。 「もう、隠さなくていい。抑えなくていいんだ」 ​黒い炎を纏った彼女の姿は、恐ろしくも神々しく、そしてどこまでも悲劇的だった。 いつか、この業火すらも優しく包み込んでくれる「誰か」に出会えると、心のどこかで微かな、あまりにも微かな希望を抱きながら、彼女は【灼熱の憎腑】をその身に宿し破滅の道を進んでいく。