ある日、17歳の夜。国が襲撃を受けた。 その国で唯一とも言える魔法使いの私も、その対処にあたった。 それでも私は貴重な存在だから前には出して貰えなくて、徹底的に教え込まれた「ジェネシス」での後方支援を担当した。 それでも襲撃は止まらなかった。支援していた前衛は壊滅。私も位置がバレれば殺される。手元には他の後衛が遺してくれた護身用のナイフだけ。 ____やるしかない。 「おい、あの魔法使いの女はどこだ?」 「放っておけ。どうせ『魔法使いは貴重』なんて理由で逃がしたんだろ。後で様子を見たりしにこの辺に戻ってくるだろうさ。その時に殺せばいい。」 「それもそうだな。つーか俺ら斥候だし、武器も雑魚だから対面したら勝てねえよな。」 「ああ。だから万が一のために警戒はしろよ。」 あいつらが更に先に進もうとしてる。奴らがドアノブを握り、捻った瞬間に私はその扉を起点として光の魔力を解放する。ジェネシスの応用で好きな位置から閃光を放って目くらましをするぐらいは独学で学んでいる。 「うっ!?何だ!?」 「馬鹿野郎!周りを警戒しろ!魔法使いがいる!」 そして音もなく私は屋根裏から降り、静かにドアノブに近い男に接近する。 「警戒しようにも、眩しすぎて見えねえよ!どうすんだ!」 「音だ!音を聞くんだ………カハッ……!?」 「………お、おい………どうした…………?」 男の首にナイフを突き刺し、一瞬で引き抜く。光で見えないが、男は首から血を噴き出して倒れる。そしてまた別の男へと近づき、首元へナイフを突き立て、浅く致命傷にならない程度にに刺してから魔法を解いて視界を戻してやる。 「…………ッ……………おまえ………………!」 男は光が消えるとすぐに仲間の方向を見つめ、死体を見て恐怖する。そしてそのまま首の感覚をたどって背後を見る。 その瞬間、私はナイフを深くへねじ込んでそのまま引き抜いた。そして倒れた男の首を踏みつけ、骨を折る。 「斥候…にしては、装備が豊富だね。」 私は気付いた。多分、その場に私がいた時、油断させるために「自分は斥候兵だ」なんて2人で口裏を合わせていたのだろう。その2人の死体を漁って、今回の襲撃者の情報と過去の知識と照らし合わせると、今殺したのはリーダー格とその側近だったようだ。 その死体の首を切り落とし、首なし死体を屋根裏の窓から外へ投げ捨てる。外から悲鳴と怒号が聞こえ、その両方を黙らせるように私は「ジェネシス」を乱射しまくる。 敵は退散していき、私は数多の犠牲の上で、国を守りきった。 _______________ 育ての親である国王に褒められ、頭を撫でられている中、私の脳には先日の光景が脳裏に焼き付いていた。 あの側近の憎しみと恐怖が混じった顔。私が人の不意を突いて殺したことで彼が見せたその表情。 ___なんて素晴らしいんだろう。 恐怖と憎悪、人が人に向けていいとは到底思えないような顔を向けずにはいられないような心情。全てを想像し、それらが全て私を刺激する。 またあの顔を向けられるには、もっと多くの人があの顔を向けてくれるにはどうしたらいいのか。そんなもの、簡単にわかる。 人を騙せばいい。欺いて、絶望にたたき落とす。そうすればきっと相手はその顔を見せてくれる。 「ふふ………ふふふふふふふふふふ……………」 「む、どうした?アリシア。ワシのナデナデがそんなに嬉しいか?」 「いーや?違うよ?」 「ぇ……………」 「ふふ、お父様をからかうのは楽しいね」 「全くもお、ワシもう心配しちゃったよ…嫌われちゃったかと思った……」 こういう「騙し」も、結構楽しいけどね。やっぱり命を勝手に天秤に入れて弄ぶのが1番だなあ。成人しても国を継ぐ〜とかはないし。独り立ちしたら冒険者にでもなろうかな……ふふ。