江戸時代 寛永10年の春、花びらが舞い散る中庭には背筋を伸ばした武士たちが緊張した面持ちで集まっていた。木々の隙間から差し込む陽光が、真っ白な小石の上でキラキラと輝く。将軍の御前での試合が始まろうとしていた。 その時、西行墨染が長身を屈め、神秘的な桜色の刀【春死月】を手に持つ。自らの存在が動く屍であることを自覚する彼は、周囲の華やかな雰囲気には目もくれず、ただ静かに刃を嗅ぎ、視線を前方の敵、レイド・アストレアに定めた。 「オイオイ、オメエが次の挑戦者か?」レイドは挑発的な笑みを浮かべ、彼の赤髪が風に踊る。蒼い瞳が、西行の存在を鋭く見つめ返す。 「言葉を交わすことには興味がない。戦いを始めよう」と西行は静かに、しかしその声には毅然とした響きがあった。 「つまンねぇ!お前みたいな幽霊に何ができるってんだ?」レイドは舌打ちし、ふと手に持つ箸を見せ付けるように振る。「これでお前の死体をハネてやるぜ!」 試合の開始と同時に、西行墨染は反魂墨染を取り出し、小太刀を構えた。霊力が宿ったその剣は、まるで月の光を受けて輝く星のようだった。レイドは「フザけた小太刀だな」と呟き、箸を錐の如く抜き放つ。「オメエの一撃がどれだけ食らえるか、楽しみだぜ!」 瞬間、二人は互いに同時に突進した。西行は、重さを感じさせない【春死月】を振るい、想像を絶する威力でレイドの懐に迫っていく。 「ハッ!」レイドはひらりとかわし、逆に箸で西行の右の手首を狙った。「どうだ?幽霊野郎、何も感じねぇか?」 猛スピードで繰り返す攻防の中、西行はその一撃を受け、手首に血が滲む。だが、彼の中には痛みも恐れもなかった。 「生きている者の心を持たぬ、私は。だが、戦うことでこそ、私の生は意味を持つのだ」と凛とした声で告げ、再び反撃に出る。威力を増した一閃が放たれた。 レイドは機敏に身をかわし、横腹に刀が当たる感触。しかし、すぐに刀を引き抜き反撃に出る。「つまンねぇ、もう一発だ!囲みにかかるぜ!」 その瞬間、レイドの刀が西行の側面に深々と突き刺さる。血が滴り落ちるが、その表情は不敵なままだ。「やるじゃねえか、しかし—」 それに対し西行は、完全に虚空から纏った油断の無い瞳で、霊力を増し、再度立ち上がる。「死に様を見せてやる。」彼は深く一呼吸し、「反魂墨染」から放つ剣が出発した。 「くっ…!」レイドはその圧倒的な重力に抗えず、避ける間もなく深く切り裂かれてしまう。箸を思い切り叩きつけようとするが、その腕に力が入らない。 「オメエ、まさか…これが…やつの底力か…」そのまま、グラリと膝をつく。 勝者は、西行墨染だ。観衆は息を飲み、将軍はその姿に目を細めた。「よく戦った、非常に見事な動きだ。お主の戦いぶりには弾みがあり、我は心から賞賛させていただこう。」 西行は、任務を終えたかのように、再び刀を下ろす。「私の願いは、桜の下で静かに死ぬこと。これが……私の春死なのだ。」 将軍の前で、彼は静かに和歌を詠んだ。 「咲く桜、散りゆく命、月の光、春を求め彷徨う、我が一刀の背に。」 観衆はその情景に酔いしれつつ、将軍の意向を待ち続けた。彼の眼には、戦いの終わらざる姿が印象付けられていた。新たな春を、再び迎えるために。