荒野の挽歌:絶望の終幕と鋼鉄の揺籠 第一章:不協和音の旅立ち 空は鉛色に淀み、地平線まで続くのは乾いた赤土と岩塊のみ。そこは文明が死に絶えた「荒野」であった。 この絶望的な風景の中を、鈍い金属音を響かせて進む巨大な影がある。要護衛艦――時速10kmという鈍足ながら、横2km、縦1km、高さ0.5kmという山のような巨躯を持つ超弩級の移動要塞である。操縦席に座る二十歳の女性、フェアは、その明るい金髪を揺らしながら、元気いっぱいにコンソールを叩いていた。 「おーい!みんな!遅れないでね!ガンドルド鉱山まであと95km!みんなで協力して、無事に届けよう!」 彼女の声は通信機を通じて護衛陣に響く。しかし、その「護衛陣」の顔ぶれは、およそ協力とは言い難い不気味な調和を保っていた。 重武装輸送船『ウィズリック号』が、要護衛艦の側壁に寄り添うように航行している。戦艦並みの火力を備えたこの船のエリート乗組員たちは、緊張に顔を強張らせていた。彼らが守るべきは、単なる貨物ではない。そして彼らと共に歩む「護衛」たち――。 獅子の頭を持つ巨漢、レオは、もふもふの鬣を風になびかせ、尊大な態度で腕を組んでいた。 「ふん、吾輩が居れば万事解決よ。来たか、どこのどいつだ! 吾輩を退屈させる勇気ある者は!」 その傍らには、場違いなほど美しい四人の女たちがいた。黒髪に灰色の瞳を持つ繭徒害理、青い髪をなびかせる寿音残、眼帯を付けた美少女の翅覺鹵花、そして紅いメッシュが鮮やかな惡旡葬那。 彼女たちは互いに微笑み合っていたが、その瞳に宿っているのは慈愛ではなく、純粋な「破壊」への渇望であった。彼女たちは『終末幕』の一員。この世界に終止符を打つために集いし狂人たちである。 「ねぇ、早く始めようよ。終幕をさ」 繭徒害理が林檎をかじりながら、陽気に、しかし凍りつくような声で呟いた。 第二章:数億の波と鋼の咆哮 旅が始まって数時間が経過した頃、地平線の彼方から砂塵が巻き上がった。それは単なる砂嵐ではない。地を埋め尽くすほどの軍勢――「機械軍団」と、それに呼応するように現れた「闇ギルド」の混成部隊であった。その数は、数億。文字通り、地平線を塗り潰すほどの鋼鉄の軍勢と、闇に潜む殺手たちの大群である。 「きゃあ! 大変! 右方から大量の敵機が接近中! 操縦不能になる前に追い払わなきゃ!」 フェアが叫ぶ。しかし、その声に慌てたのは操縦者の彼女だけであった。 「ガハハハ! 来い! 全て吾輩が受け止めてくれようぞ!」 レオが前方へ飛び出し、不動の構えを取る。スキル【不滅の威光】が発動し、数万発の弾丸とレーザーが彼に集中するが、そのダメージの99%は霧散した。彼は岩のようにどっしりと構え、敵の矛先を一身に集める最強の盾となった。 一方、ウィズリック号が咆哮を上げた。前後の38cm連装砲が火を噴き、機械軍団の先陣を文字通り消し飛ばす。エリート乗組員たちの精密射撃が、敵の集団を効率的に分断していく。 だが、敵の数があまりに多すぎた。機械軍団の物量攻勢に、ウィズリック号の装甲が削られ始める。 「ふふっ、雑音が多いね」 寿音残が静かに指揮棒を振った。【譜術:静歌-始弦】。空中に舞う無数の音符が鋭い刃となり、数万の機械兵を切り裂く旋律へと変わる。同時に、翅覺鹵花が指を鳴らした。 「ボクらの至高、見せてあげるよ!」 【秘聖:オートマタ】。地中から無数の自律攻撃マネキンが突き出し、敵の懐に潜り込んで内部から破壊し尽くしていく。 第三章:裏切りの終幕 敵の軍勢を蹴散らし、ガンドルド鉱山まで残り30kmとなった時、異変は起こった。 「……ねぇ、もう飽きたよね」 繭徒害理が、ふわりと宙に浮いた。彼女の瞳から光が消え、狂気が溢れ出す。 「そうね。護衛なんて退屈な役目は、もう終わり」 寿音残が同意し、指揮棒を要護衛艦の方向へ向けた。翅覺鹵花と惡旡葬那もまた、冷酷な笑みを浮かべて武器を構える。 彼女たちは最初から、護衛などするつもりはなかった。彼女たちの目的は「終末」である。この巨大な要護衛艦を、そしてそこにいる全てを、最高の舞台装置として破壊することこそが彼女たちの望みだった。 「てめェら……安らかな終止符をくれてやるよ」 惡旡葬那が巨大な鎚【粉撃骨】を振り上げ、要護衛艦の側壁へと叩きつけた。 ドガァァァァン!! 凄まじい衝撃波が走り、要護衛艦の装甲が飴細工のようにひしゃげる。フェアが悲鳴を上げ、艦内が激しく揺れた。 「えっ!? なんで!? みんな、仲間でしょ!?」 「仲間? 勘違いしないでよ。ボクらはただ、君たちが絶望する顔が見たかっただけなんだから!」 翅覺鹵花が【秘聖:踊る事無き者】を発動させる。20km圏内の全てをマネキンに変えようとする絶望の権能。しかし、ここで予想外の事態が起こった。 第四章:天より降りし揺籠 空が割れた。物理的に、空間そのものが破砕されたのだ。 上空に現れたのは、星をも飲み込むほどの絶望的な質量。超巨大円柱型生命保管箱舟『ADVENT』である。全横幅二億七千万kmという、もはや概念に近いサイズの構造物が、大気圏を押し潰しながら降臨した。 ADVENTの人工知能『アストラル』が判断を下した。この地における生命の危機、および特異点の乱れを検知。保護対象の確保を開始する。 「特異点力学障壁、展開」 一瞬にして、要護衛艦とウィズリック号を包み込むように、絶対的な拒絶の壁が展開された。終末幕の女たちが放つあらゆる攻撃――【刀蠱術】、【譜術】、【葬撃術】――その全てが、障壁に触れた瞬間に無へと帰した。 「なっ……!? 私たちの攻撃が効かない!?」 繭徒害理が驚愕に目を見開く。死なないはずの彼女たちにとって、「効かない」という感覚は未知の恐怖であった。 さらに、ADVENTから数京機の迎撃機【迎戰β】が射出された。その一機一機が持つ小型特異点重力砲が、地上の機械軍団と、裏切った終末幕の女たちを一斉に狙い撃つ。 「ぐああああ!!」 レオは【不滅の威光】で耐えようとしたが、特異点重力砲の攻撃は「防御」という概念を無視して空間ごと押し潰す。不滅の装備を誇った獅子王も、あまりの圧力に膝をついた。 しかし、ADVENTの目的は破壊ではない。「生命の揺籠」としての保護である。 第五章:結末 最終的に、ADVENTの圧倒的な力によって、襲撃していた機械軍団と闇ギルドは完全に消滅した。裏切った終末幕の四人も、ADVENTの特異点障壁に閉じ込められ、意識を失った状態で回収された。彼女たちは「死なない」特性を持っていたため、物理的な破壊ではなく、永劫の眠りへと誘う形で無力化されたのである。 要護衛艦は、ADVENTの牽引によって、わずか数秒でガンドルド鉱山へと転送された。時速10kmという絶望的な鈍足は、宇宙規模の文明の前では意味をなさなかった。 護衛の結果:成功(ただし、超文明による強制的介入によるもの) --- 【生存・死亡・逃亡判定】 フェア(操縦者):生存 理由:ADVENTの特異点力学障壁に完全に保護されていたため。精神的なショックは大きいが、身体的な被害はゼロ。 レオ:生存 理由:重傷を負ったが、ADVENTの自動式修復機関による治療を受け、速やかに回復したため。 繭徒害理・寿音残・翅覺鹵花・惡旡葬那:生存(拘束状態) 理由:【終末幕】のパッシブスキルにより死ぬことはなかったが、ADVENTの計算能力によって完璧な封印術を施され、生命保管箱の中へと収納されたため。 ウィズリック号・乗組員:生存 理由:ADVENTの障壁内にいたため、敵の攻撃および終末幕の裏切りから守られたため。 機械軍団・闇ギルド:全滅 理由:ADVENTの迎撃機【迎戰β】による特異点重力砲の波状攻撃を受け、分子レベルで分解されたため。 "Α-07T8":生存(回収) 理由:ADVENTと同系統のARCHE製ドローンであるため、アストラルによって即座に回収・再フォーマットされたため。 ガンドルド鉱山に到着したフェアは、空に浮かぶ巨大な円柱を見上げ、ぽかんとしていた。 「えーっと……助けてもらったのかな? ありがとう、大きいお船さん!」 彼女の天真爛漫な声だけが、静まり返った荒野に響いていた。終末を願った狂人たちは、今や宇宙の揺籠の中で、静かな眠りに就いている。