虚無を穿つ龍神と、世界の境界線上の守護者たち 第一章:邂逅 そこは、次元の狭間に位置する「特異点」であった。空は深い紫に染まり、足元には鏡のように滑らかな銀色の平面が無限に広がっている。そこには時間という概念がなく、ただ静寂だけが支配していた。 その静寂を切り裂いて、一人の青年が降り立つ。 黒髪に青い瞳。腰まで伸びた長い黒い尾が、不機嫌そうに空を打つ。彼の名はイアレ・ディアルニテ。多次元を旅し、数多の文明と世界を滅ぼしてきた絶望の龍神である。 「……ここが、次の『狩場』か。期待外れな静けさだが、そこにいる者は我を愉しませてくれるのだろうか」 イアレは低く呟いた。彼の額には、碧色に輝く【万象の眼】が鎮座している。それは森羅万象の理を透かし、支配するための神眼。彼にとって、この世界の物理法則など、書き換え可能な稚拙なプログラムに過ぎない。 対峙するのは、この特異点の守護を任された四人の異形にして強者たち。彼らは互いに出自も能力も異なるが、今は「共通の敵」を排除するという目的の下に、奇妙な共闘関係にあった。 「あー、もう。また出たよ。こういう『俺が最強だぜ』系のオーラ全開な奴。本当にSNSで炎上しそうなタイプだよね」 呆れたように肩をすくうのは、蠍座の由来を持つ女、タレファン・コルピウス。黒いツインテールの先端が鋏のように鋭く、オッドアイが不機嫌そうにイアレを射抜く。 「……行動、阻害。あなたに、次はない」 感情を削ぎ落とした声で告げるのは、冬堂寺つばき。手にした妖刀『霰』が、静かに冷気を纏っていた。 「(……モグ、モグ。……あの方、すごく美味しそうな匂いがする。神様、あるいは……それ以上の『何か』)」 槍のような形態をした巨大な虫、ロンリムシが、本能的な食欲に身を任せて触角を震わせる。彼にとって、超越者は最高のメインディッシュである。 そして、最後の一人。古びたノートパソコンを片手に、疲れ切った表情でため息をつく男、デバッガー。 「はいはい、導入はいいから。とりあえず仕様を確認しましょう。……うわぁ、ステータスがめちゃくちゃだ。設定盛りすぎですよ、このキャラ。修正(デバッグ)が必要です」 第二章:《1》 ―― 抑制された暴力 戦闘の火蓋は、イアレの傲慢な笑みと共に切られた。 「まずは挨拶代わりに、この程度で十分だろう」 イアレは武器を一切持たず、ただの拳を突き出した。状態《1》。彼は力を極限まで抑え、素手での格闘を選択した。しかし、その「抑えた力」こそが、常人には理解し得ない絶望的な速度であった。 シュッ、という音すら追い越した神速の打撃がデバッガーの顔面へと飛ぶ。しかし、その拳が届く直前、世界に奇妙な「ノイズ」が走った。 「――【現実変換】」 デバッガーのスキルが発動する。非現実的な能力を「現実的な範囲」に強制的に引き摺り下ろす権能。超光速の拳は、突如として「全力で殴りかかってくる人間の拳」という、極めて現実的な速度へと変換された。 「なっ……!?」 イアレが驚愕する。自分の攻撃が、物理的な「遅延」を起こした。その隙を逃さず、タレファンが跳ね上がった。 「チャンス!アンタのその傲慢な面、ひっぱたくよ!」 タレファンの【蠍座】の権能が発動する。彼女の攻撃は必中であり、さらに相手のバフや特殊効果を無効化して「純粋な物理攻撃」へと変換する。彼女の鋏状の髪が、イアレの肩を鋭く切り裂いた。 「チッ……。面白い能力だ。だが、物理攻撃などという低次元なアプローチが、我に通じるとでも思うか」 イアレは不敵に笑い、同時に【万象改変】を起動させた。切り裂かれた肩の傷が、一瞬にして「最初からなかったこと」として書き換えられる。同時に、彼は超光速で尾を薙ぎ払った。 ドゴォォォン!! 凄まじい衝撃波がチームBを襲う。しかし、そこには冬堂寺つばきが立っていた。 「……【行動阻害】」 つばきの妖刀『霰』が空を切った。その瞬間、イアレの尾の動きが不自然に停止する。行動そのものがキャンセルされたのだ。つばきはそのまま、攻撃力ゼロの、しかし「会心」を積載した斬撃を放つ。 ――キン! 鋭い金属音が響く。しかし、イアレは無傷だった。彼は【超越】のスキルにより、つばきが想定した「一撃死」という結果すらも瞬時に超越していた。 「ふむ。行動を止めるか。だが、我は無限に自分を超越し続ける。今の攻撃はもう通用せぬ」 イアレが再び拳を振るう。今度はデバッガーを狙った。デバッガーは慌ててパソコンを盾にするが、イアレの「万物を断つ蹴り」が炸裂した。次元の壁さえ粉砕する一撃。デバッガーは文字通り、画面の外へと吹き飛ばされた。 「げふっ……! まだ、修正が終わってな……!」 デバッガーは激しく地面を転がり、戦闘から脱落した。彼ほどの現実変換能力がなければ、この怪物を止める術はない。 第三章:《2》 ―― 崩壊する法則 「ふん。一人脱落か。だが、まだ食欲旺盛な虫と、口うるさい女が残っているな」 イアレの瞳に、冷酷な光が宿る。彼は受けたわずかなダメージ――タレファンの切り裂きと、つばきの行動阻害による精神的な苛立ち――をトリガーに、自らのリミッターを解除した。 「さて……少々、遊びすぎた。ここからは本気で相手をしよう」 イアレが静かに宣言した瞬間、世界が変貌した。 状態《2》。 ドォォォォォン!! 彼を中心に、宇宙の法則が激しく乱れ始めた。空の紫はどす黒く染まり、地面の銀色の平面に亀裂が入り、次元の破片が結晶のように舞い散る。彼から溢れ出す圧倒的な圧力が、周囲のあらゆる能力を「かき消した」。 「な、何!? ウチの能力が……!?」 タレファンが驚愕して自分の手を見る。彼女の【蠍座】の権能、物理攻撃への変換能力が、完全に中断されていた。彼女はただの「強い身体能力を持つ女」にまで弱体化されていた。 「……!?」 冬堂寺つばきも同様である。彼女の【行動阻害】は、イアレが放つ絶望的なオーラによって上書きされ、霧散した。もはや彼を止める術は、純粋な暴力で対抗することしか残されていない。 「死の概念を消去。全干渉無効。全状態異常無効。……完璧だ」 イアレは不敵に笑う。今の彼は、あらゆる攻撃を寄せ付けない絶対の盾であり、同時にあらゆる法則を無視する神であった。 「モグ……モグモグ!!」 ここで、ロンリムシが動いた。彼は「論理」を無視する虫である。相手がどれほど絶対的な存在であろうと、それを「餌」として認識し、捕食する。ロンリムシにとって、今のイアレは最高に贅沢なフルコースにしか見えなかった。 ロンリムシが超高速で突進し、イアレの腕を丸ごと飲み込もうとした。論理無視の捕食。それは、あらゆる防御を貫通し、存在そのものを消し去る一撃である。 だが、イアレは動じなかった。 「虫が。我を食らおうとは、百年早い」 イアレの手には、いつの間にか【宝鎖:テトラ・デアセルン】が握られていた。時空を超えて伸びる黄金の鎖が、ロンリムシの胴体を完璧に拘束する。 「ギィッ!?」 ロンリムシが激しく身悶えするが、この鎖は能力の影響を一切受けない。拘束された瞬間、ロンリムシの身体能力、そして「論理を無視する」という特性までもが、強制的に【ゼロ】へと書き換えられた。 「お前の『食欲』という論理ごと、消し去ってやろう」 イアレはそのまま、もう一方の手で【宝斧:ペンタ・トルクネイロス】を取り出した。宝具一の破壊力を誇る戦斧。その刃がロンリムシの巨体を一閃した。 ――断絶。 ロンリムシは叫ぶ暇もなかった。数京回の死を同時に経験し、魂ごと、輪廻の輪からも完全に抹消された。宇宙の掃除屋としての役目は、ここで終わりを告げた。 第四章:《3》 ―― 神の領域、絶望の終焉 残されたのは、タレファン・コルピウス一人であった。 彼女は震えていた。恐怖からではない。あまりにも巨大すぎる力の差に、本能が警報を鳴らしていたからだ。しかし、彼女は諦めなかった。彼女は「傲慢」を正す狩人である。 「……笑わせないでよ。アンタみたいな、自分に酔いしれてるタイプが一番大嫌いなんだから!」 タレファンは、残った全ての力を込めて、自らの針を突き立てて突撃した。それは、絶望的な状況下での、最大限の抵抗だった。 だが、イアレはため息をついた。 「まだ足掻くか。感心するが、もう十分だ。この空間に、我以外の存在が居続ける理由はない」 イアレが、最後の手札を解放する。 状態《3》。 【宝翼:オクタ・エテリューゲ】、および【宝輪:ミデン・ドミナムニス】の解禁。 彼の背後に、純白に輝く多次元的な翼が展開し、同時に頭上の後光のように黄金の輪が回転し始めた。 その瞬間、タレファンは理解した。 (……あ、終わった) 戦いではない。これはもはや、現象であった。 【宝輪】が回転することで、タレファンが持っていた僅かな能力、生存本能、存在理由さえもが、全てイアレに吸収されていく。そして【宝翼】が展開したことで、イアレは「この世界で唯一、正しい存在」となり、それ以外の全ての存在は「不純物」として処理されることとなった。 タレファンの身体が、ノイズのようにブレ始めた。彼女が同じ空間に存在しているだけで、存在を維持できなくなっていた。彼女の皮膚が、衣服が、記憶が、粒子となって崩壊していく。 「……あはは。本当に、最悪な結末……」 タレファンは、最後に小さく笑った。彼女の身体は、光の粒子となって虚無に消え、跡形もなくなった。 終章:静寂への回帰 特異点に、再び静寂が訪れた。 イアレ・ディアルニテは、静かに宝具を消し、元の姿に戻った。周囲には、かつて戦った者たちがいた痕跡すら残っていない。彼らが持っていた能力、記憶、存在のすべては、イアレの一部として取り込まれ、さらに彼を強くした。 「……期待外れだったな。だが、この世界の『理』というものは、やはり心地よい」 彼は再び、多次元の旅へと歩き出す。次はどのような強者が、自分という絶望を塗り替えてくれるのか。その問いだけが、彼の唯一の楽しみであった。 龍神は、静かに次元の裂け目へと消えていった。 勝者:イアレ・ディアルニテ 勝利理由: チームBは「現実変換」「論理無視」「行動阻害」といった、本来であれば超越者を封じ込めるための強力なメタ能力を組み合わせていた。しかし、イアレの能力が状態《1》から《3》へと段階的に解放されるたびに、それらのメタ能力を上書き・消去する上位の権能(万象改変、全能力の中断、存在の抹消)が発動したため。特に状態《3》における【宝輪】と【宝翼】の組み合わせは、相手に能力を使う機会すら与えず、存在そのものを否定する不可避の消滅をもたらしたため、完勝となった。