空を突き刺すような巨大な円形闘技場。そこには、国中の民と、遠方から集まった好事家たちが詰めかけ、地鳴りのような歓声が渦巻いていた。今日は、失われた王位の継承者を決める、究極の御前試合。勝ち残った者が、この国の絶対的な権力を手にするという。 「さあ、始まりだ! 運命を分かつ四人の戦士よ、闘技場へ!」 司会者の叫びと共に、個性の異なる四者が姿を現した。金髪をなびかせ、希望に満ちた笑顔でロッドを握る王女シャイン。黒い大剣を背負い、静寂を纏って歩く孤高の剣豪ジュラキュール・ミホーク。互いの背中を信頼し合い、強い意志を瞳に宿した兄妹、竈門炭治郎と禰豆子。そして――。 そこに、ただ「立っている」だけの存在があった。名前も、正体も、目的もわからない。ただそこに在るという事実だけがある、正体不明の「謎」という男(のような何か)である。 「みんな、全力でいくよ! ファイト、おー!」 シャインが元気よく声を上げ、場を盛り上げる。対してミホークは、黄金の瞳で周囲を冷徹に観察し、静かに口を開いた。 「……馴れ合いの場ではない。ここでは実力こそが全てだ」 「俺たちは、必ず勝ちます! 禰豆子、一緒に行こう!」 炭治郎が刀の柄に手をかけ、隣に立つ禰豆子が「うむっ!」と力強く頷く。一方の「謎」は、ただぼーっと空を眺めていた。そのあまりに拍子抜けした態度に、観客席からは困惑の声が上がるが、彼から放たれる正体不明の威圧感に、熟練の戦士たちは本能的な危惧を抱いていた。 試合開始の鐘が鳴り響いた瞬間、戦場は混沌へと突き落とされた。 先手を打ったのはシャインだ。彼女は『フラッシュ・ムーヴ』により肉体を光へと変え、超高速で移動。一瞬でミホークの死角に回り込み、『フラッシュ・グレネイド』を叩き込む。 「くらえっ!」 強烈な光弾が放たれるが、ミホークは視線すら動かさない。見聞色の覇気でその軌道を完璧に読み切り、最小限の動作で回避した。さらに、彼は腰の黒刀「夜」をゆっくりと抜き放つ。 「甘いな」 ミホークが軽く腕を振る。ただの斬撃。しかし、それは真空を切り裂く巨大な飛ぶ斬撃となってシャインを襲った。爆風が闘技場を揺らし、シャインは咄嗟に光の障壁を展開したが、その威力に吹き飛ばされる。 そこへ、炎を纏った一撃が突き刺さる。 「ヒノカミ神楽――円舞!」 炭治郎が爆発的な加速でミホークの懐に潜り込んだ。同時に、成長した禰豆子が強烈な蹴りをミホークの側頭部へ叩き込む。炭治郎の炎の斬撃と禰豆子の蹴りが、最高峰の剣豪を挟み撃ちにした。 「ほう……面白い」 ミホークは武装色の覇気を刀に纏わせ、炭治郎の刀を真っ向から受け止めた。火花が激しく飛び散り、衝撃波が観客席まで届く。炭治郎は諦めない。禰豆子が炭治郎の刀を握り、血を付着させる。血鬼術『爆血』による爆血刀だ! 「これで……っ!」 炎と血の爆発を纏った一撃がミホークを襲う。しかし、その乱戦の最中、誰も気づいていなかった。 「謎」が、いつの間にか炭治郎の背後に立っていたことに。 「えっ?」 炭治郎が振り返る間もなく、「謎」の手が軽く彼の肩に触れた。その瞬間、炭治郎と禰豆子の身体が、まるで空間ごと弾き飛ばされるかのように闘技場の外へと吹き飛ばされた。攻撃した様子もない。ただ触れただけだ。しかし、そこには物理法則を無視した不可解な力が込められていた。 「なんだ、今の力は……!?」 シャインが驚愕し、奥義『シャイニングブリッツ』を起動する。無数の光弾が雨のように「謎」へと降り注ぎ、闘技場を真っ白に染め上げた。凄まじい爆発が起き、煙に包まれる。「謎」の姿は見えない。誰もが、彼が消滅したかと思った。 だが、煙が晴れたとき。そこには、最初と全く同じ、ぼーっとした表情の「謎」が立っていた。衣服に汚れ一つなく、傷一つない。どころか、彼はいつの間にかミホークの背後に回り込んでいた。 ミホークは戦慄した。見聞色の覇気で相手の心を読もうとしても、そこには「何もなかった」。心がないのではない。概念そのものが「謎」であり、読み取るべき情報が存在しないのだ。 「貴様……正体は何だ」 ミホークが最大級の斬撃を放つ。山をも切り裂く黒い閃光が「謎」を真っ二つにした。観客は悲鳴を上げ、静寂が訪れる。誰もが、最強の剣豪が勝利したと確信した。 しかし、斬られたはずの「謎」が、首を傾げて笑った。断面から光のようなものが溢れ出し、瞬時に身体が再生する。いや、再生ではない。最初から斬られていなかったかのように「戻った」のだ。 「……っ!」 ミホークが再び刀を構えようとした瞬間だった。「謎」がふわりと手を挙げた。すると、ミホークの持つ黒刀「夜」が、まるで意志を持っているかのように、彼の手からすり抜けて空高くへと舞い上がった。武器を奪われたミホークは、そのまま「謎」の手のひらによる軽い一撃を胸に受け、衝撃で闘技場の壁まで吹き飛ばされた。 誰もが絶望し、同時に驚愕した。光の魔法も、最高峰の剣術も、不屈の呼吸も、すべてがこの「謎」という不条理の前には無力だった。 勝敗の決め手は、能力の強弱ではなかった。いかなる攻撃も無効化し、いつの間にか位置を変え、相手の根源的な理(ことわり)を書き換えるという、「謎」だけが持つ絶対的な不確定性。それが、世界最強の戦士たちを完封させたのである。 静まり返った闘技場に、司会者が震える声で宣言した。 「勝者……『謎』!! 新たなる王の誕生だ!!」 観客は最初、困惑していた。しかし、あまりに圧倒的な、神をも超えた力に、やがて恐怖は崇拝へと変わった。人々は一斉に膝をつき、得体の知れない新王に向かって歓声を上げた。 「新たな王、万歳! 万歳! 万歳!!」 こうして、正体不明の王による治世が始まった。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王「謎」の治世は、歴史上最も不可思議な時代となった。彼は政務という概念を持たず、ただ王座でぼーっとして過ごしていた。しかし、不思議なことに、彼が王であるだけで国から争い事が消え、飢饉が起きてもいつの間にか食料が満ちていた。彼が「謎」であるため、誰も彼に逆らうことができず、同時に誰も彼を憎むことができなかった。 結果として、この国には類を見ない平和が訪れた。彼が行ったのは「善政」でも「悪政」でもなく、「不可思議な調和」であった。この謎に満ちた平和な治世は、彼がふと「飽きた」と言って忽然と姿を消すまで、実に300年もの長きにわたって続いたという。