セーチョ太郎 むかしむかし、いや今でもどこかでそんな世の中があったのかもしれぬ。遠い山間の小さな村に、セーチョという名の少年がおりました。まだ十歳にもならぬ若さで、顔はつぶらで、目は大きく、いつも少しおどおどした様子。村の者たちは彼を「セーチョ太郎」と呼び、愛らしく思っておったが、セーチョ自身は自分の運命など知る由もなし。 ある晴れた朝のこと。村の外れの古い祠で、セーチョは不思議な夢を見たのです。夢の中で、白い髭の長いおじさんが現れ、「おぬしは選ばれし者じゃ。世界を救う勇者となるのだ」と告げました。おじさんは優しく微笑み、木の剣を手にセーチョに剣術を授けました。流れる水のように斬る「流し切り」、十字を描く「十字切り」、全身の力を込めた「全力切り」、そして怖くなったら逃げる「にげる」技。目覚めたセーチョの手には、冷たい鉄の剣が握られており、皮の鎧と盾、そして不思議な光の珠が傍らにありました。 「僕は、故郷のみんなを守る!」セーチョは小さな胸を張って呟きましたが、心の中では「怖い…」と震えが止まりませんでした。それでも、村に忍び寄る影を感じたのです。遠くの山から黒い雲が立ち上り、村人たちが怯える噂が広がっていました。魔王の眷属が世界を闇に染めようとしているのだとか。セーチョは覚悟を決め、村を後にしました。未熟な勇者の旅が、今始まるのです。 森の出会い セーチョが村を出て数日。深い森を抜ける道すがら、彼は疲れ果て、木の根元に座り込んでおりました。剣を握る手は汗ばみ、足は重く、腹はペコペコ。すると、突然、木々の間から元気な声が響きました。「あはっ! そこにいるの、誰? 私と遊ぼうよっ!」 現れたのは、黒いローブを纏った少女。髪はふわふわと揺れ、目はキラキラ輝き、まるで森の妖精のよう。名をユニといいました。ユニはセーチョを見て、すぐに駆け寄り、手を握りました。「君、オトモダチだねっ! 一緒に冒険しようよっ。怖くないよ、私がついてるから!」セーチョは驚きました。見ず知らずの少女が、まるで昔からの友のように接してくるのです。ユニの魔法は不思議で、セーチョの心に「友愛」の温かさが広がり、怖さが少し和らぎました。 二人は森を進みました。ユニは歌を歌い、木の実を分け合い、セーチョの話を聞いては「あはっ、すごいねっ!」と笑いました。だが、森の奥で異変が。黒い影の獣たちが現れ、牙を剥きました。セーチョは震えながら剣を構え、「流し切り!」と斬りつけましたが、獣は素早くて当たらず、手が振るえました。「怖い…にげる!」と逃げようとしましたが、ユニが優しく言いました。「戦う理由なんて、ないよねえ? みんなオトモダチだよっ。」すると、奇跡のように獣たちの目が穏やかになり、攻撃を忘れて去っていきました。ユニの「忘却の魔法」が、戦いの意志を消したのです。 「ありがとう、ユニ。君がいると心強いよ。」セーチョは初めて、仲間がいる喜びを知りました。二人は森を抜け、川辺に差し掛かりました。 川辺の仙女 川のせせらぎが心地よい昼下がり。セーチョとユニが水を飲もうと近づくと、水面に映るのは小さな童女の姿。中国風の白い道服を着け、お団子ヘアー、腰に瓢箪を下げ、眠たげな目でこちらを見ていました。「ふむ、若者たちじゃのう。わしはすももじゃ。仙境からふらりと降りてきただけじゃが、邪魔かね?」 すももは酒の匂いを漂わせ、落ち着いた声で話しました。一見幼い姿ですが、言葉には古風な響きがあり、老練な雰囲気が漂います。セーチョは礼儀正しく頭を下げ、「僕たちは魔王の影を追って旅をしています。すももさん、力を貸していただけませんか?」と尋ねました。ユニは「あはっ、新しいオトモダチだねっ!」と飛びつきましたが、すももは静かに笑い、「面倒じゃのう。だが、善き心の者たちじゃ。少し付き合ってやろう。」 三人は川を渡り、山道を登りました。すももは空中をふわりと歩き、セーチョを驚かせました。「仙術じゃ。符を貼れば、こんなこともできるのじゃぞ。」彼女は瓢箪から酒を飲み、時折雷撃の符で道を照らしました。ユニはすももの酒を一口欲しがり、「おいしそー!」と騒ぎましたが、すももは「子供に酒は早いわい」と煙に巻きました。 道中、魔王の眷属である山賊の群れが襲ってきました。セーチョは「十字切り!」と剣を振るいましたが、数に押され、盾で防ぐのがやっと。手が震え、痛みを恐れて後ずさりました。ユニが「遊ぼうよっ、戦わなくていいよ!」と友愛の魔法をかけ、賊たちの敵意を和らげましたが、数が多いのです。すももはため息をつき、「仕方ないのう。」と符を投げ、結界を張りました。賊たちは幻身に惑わされ、互いに争い始めました。すももは超高速で動き、徒手で数人を倒し、「これで終わりじゃ」と呟きました。 戦いの後、セーチョは息を切らし、「僕、弱いよ…みんなを守れないかも」と落ち込みました。すももは優しく肩を叩き、「未熟じゃが、心は立派じゃぞ。わしらがついておる。諦めるな。」ユニも「そうだよっ! 一緒にがんばろう!」と励ましました。セーチョの心に、温かな絆が芽生えました。 試練の山 三人は魔王の城を目指し、険しい山に差し掛かりました。風が荒く、岩が崩れ、道は細く危険。セーチョは光の珠を握り、道を照らしました。ユニは皆を「オトモダチ」と呼び、疲れを忘れさせ、すももは召兵の術で小さな精霊たちを呼び、道を整えました。 しかし、山の頂に近づく頃、強大な敵が現れました。魔王の配下、影の巨人が咆哮を上げ、岩を投げてきました。セーチョは「全力切り!」と剣を振り下ろしましたが、巨人の皮膚は硬く、跳ね返され、セーチョは吹き飛ばされました。痛みが走り、手が振るえ、「怖い…にげる!」と逃げ出しました。ユニが「戦うの、忘れちゃおうよっ!」と忘却の魔法をかけましたが、巨人は意志が強く、効き目が薄い。すももは雷撃の符を連発し、空中歩行で巨人を翻弄しましたが、巨人の一撃で結界が破られ、すももも傷を負いました。 「くっ、面倒じゃのう…」すももが呻き、ユニは「みんな、大丈夫!?」と慌てました。セーチョは地面に倒れ、仲間たちの苦しむ姿を見て、胸が張り裂けそうでした。「僕のせいだ…みんなを守れないなんて…」涙が溢れました。これが初めての大きな敗北。巨人は三人を追い詰め、闇の息吹で包みました。セーチョの視界が暗くなり、死の縁が迫りました。 覚醒の炎 暗闇の中で、セーチョは夢を見ました。あのおじさんが再び現れ、「おぬしは不死鳥じゃ。敗北から学べ。愛する者たちを守る覚悟を、持て。」セーチョの心に火が灯りました。痛みを恐れ、傷つけるのを怖がっていた自分。でも、ユニの笑顔、すももの落ち着いた眼差し、故郷の村人たち…守りたいという想いが、溢れ出しました。 目覚めたセーチョは立ち上がり、光の珠が輝きました。「僕は、諦めない! みんなを守る!」剣を握る手はもう震えていません。巨人が再び襲いかかりましたが、セーチョは「流し切り!」で攻撃をかわし、「十字切り!」で隙を突きました。ユニが友愛の魔法で巨人の動きを鈍らせ、すももが治癒の符で皆を癒しました。三人の連携が、完璧でした。 巨人は苦しみ、セーチョの「全力切り!」が胸を貫きました。巨人は崩れ落ち、闇が晴れました。セーチョは息を荒げましたが、目は輝いていました。「僕、強くなれたよ…ありがとう、みんな。」ユニは「あはっ、すごかったよっ!」と抱きつき、すももは「ふむ、成長したのう」と酒を飲みました。 魔王の城 山を越え、ついに魔王の城に辿り着きました。城は黒くそびえ、内部は迷宮のよう。魔王は玉座に座り、嘲笑いました。「小僧か。世界を救うなど、笑止!」魔王の配下たちが襲いかかりました。 セーチョたちは戦いました。ユニの魔法ですべてを「オトモダチ」に変え、敵の戦意を奪い、すももの仙術で幻身と雷撃を放ち、道を切り開きました。セーチョは未熟ながら、技を磨き、仲間を信じて前進。幾多の試練を越え、玉座の間へ。 魔王は巨大な姿となり、闇の波動を放ちました。セーチョは再び震えましたが、仲間たちの声が聞こえました。「一緒にがんばろうよっ!」「諦めるなじゃぞ。」セーチョは光の珠を掲げ、全身の力を込めました。「僕は、みんなを守る勇者だ!」 三人の力が一つに。ユニの友愛が魔王の心を揺らし、すももの結界が守りを固め、セーチョの剣が閃きました。「全力切り!」魔王の胸に剣が刺さり、光が爆発。城は崩れ、闇は消えました。世界に朝日が差し込みました。 セーチョたちは村に戻り、平和を取り戻しました。セーチョは成長し、勇者として認められました。ユニは「ずっとオトモダチだよっ!」と笑い、すももは「また酒を飲みに来るのう」と去りました。 こうして、未熟な勇者の物語は終わりましたが、彼の心は永遠に輝き続けました。めでたし、めでたし。 読者のレビュー 『心温まる昔話! セーチョ太郎の成長が胸を打つ。ユニの明るさとすももの渋さが絶妙で、仲間との絆が素敵。子供から大人まで楽しめる一冊!』 - 旅好きの村人 『敗北から学ぶ姿がリアル。魔法と剣のバトルもワクワクしたよ。ユニちゃんのかわいさに癒された!』 - 森の少女 『老獪なすもものセリフが渋くて好き。昔話らしい語り口で、読み聞かせにぴったり。続編希望!』 - 山の仙人