天空の頂に聳え立つ、万物の生命の根源たる『世界樹』。そこはあらゆる理の交差点であり、同時にあらゆる次元から狙われる至宝であった。今、その聖域に、造反神が解き放った天からの最強種【ヴァルテクス】が降り立つ。 空を覆い尽くすのは、星々の形を模した絶望の軍勢。今回の侵略に選ばれたのは、戦略的連携に特化した四柱――【獅子座 レオン】、【射手座 サジタリス】、【双子座 ジェミニム】、そして【水瓶座 アークエリス】である。 「……来ちゃった。どうしよう、怖いよぉ……」 世界樹の根元、湿った空気の中にうずくまる少女、ビリーは震えていた。彼女の周囲には、彼女のネガティブな感情に呼応するように、どろどろとした苔と毒々しい極彩色の茸が群生している。彼女が動けば転ぶ。だから彼女はただそこに居続けた。しかし、その「静止」こそが、世界樹の麓に巨大な原生生態系を築き上げていた。 「大丈夫だよビリーちゃん! アタシの運があれば、こんな怪物たち、全部どっか飛んでいくって!」 ハイテンションに叫ぶのはギャルのルカナだ。彼女はタロットカードを指先で弄び、最強の運気を身に纏っている。その横では、空色髪のヒューマノイド、エニールちゃんがプラズマライフルを構え、冷静に敵の数を確認していた。 「敵対生命体、四体。エネルギー反応は測定不能。……警戒してください」 さらに後方では、不可解な存在である『文字』が静かに佇んでいた。そして、中学生のような外見をした少年、園が、虚空を見つめて淡々と呟く。 「……面倒だな。でも、ここで壊されたら困るし」 そして、場にそぐわない色彩を放つ男、M氏(ドナルド)が陽気にステップを踏んでいた。 「みんな元気も~りもり! 行こうか!」 戦いの火蓋は、【射手座 サジタリス】の一撃によって切られた。天を射抜く光の矢が、音速を超えて世界樹の防衛線を貫く。だが、その矢はルカナの「超フォーチュン」によって、わずか数ミリの差で彼女の髪をかすめ、背後の岩を粉砕した。 「わー! 危なーい! でも当たんないし!」 【双子座 ジェミニム】が二つの個体に分かれ、猛攻を仕掛ける。一方が物理的な破壊を、もう一方が精神的な崩壊を同時に叩きつける。しかし、そこに立ちはだかったのは『文字』であった。 「文字は負けない」 概念的な宣言。文字がそこに在る限り、あらゆる攻撃は「文字通り」に無効化される。ジェミニムの爪が文字の体に触れた瞬間、それはただの「文字」という記号に弾かれ、物理的な干渉を拒絶された。 しかし、ヴァルテクスは連携する。彼らは言語を介さず、意識を共有していた。 【水瓶座 アークエリス】が空から理を覆す神力を降らせる。それは「再生の拒絶」と「重力の反転」を同時に引き起こす不可視の波動だった。世界樹の周囲に張り巡らされていた防衛結界が、ガラスのように砕け散る。 「アラー!」 M氏が叫び、わざとらしく転んだ。その衝撃で周囲の地面が激しく揺れ、接近していた【獅子座 レオン】の体勢を崩させる。絶好の機会に、エニールちゃんがプラズマライフルを連射した。 「目標ロック。最大出力で射撃します!」 高熱のプラズマ弾がレオンの胸元を焼き切る。だが、ヴァルテクスの特性――「傷は即再生」。焼かれた肉体は一瞬で盛り上がり、元の形に戻った。レオンが咆哮し、金色の爪でエニールちゃんをなぎ払う。金属のアーマーが激しく火花を散らし、彼女の体が後方へ吹き飛ばされた。 「エニールちゃん!」 ルカナが慌ててタロットを引く。「運命の輪」が回転し、レオンの足元に不運が降り注いだ。レオンが踏み出した一歩で、地面に突き出た小さな根に足を取られ、派手に転倒する。その隙に、ビリーの周囲に生えた茸たちが、彼女を守るために一斉に飛び出した。 「ビリーちゃんをいじめるなー!」 自我を持った茸たちが、レオンの体にまとわりつき、強力な麻痺毒を注入する。さらに、ビリーの生態領域に足を踏み入れたレオンの意識が混濁し、最強の怪物が「あほ」な状態に陥った。 だが、戦略的連携は止まらない。アークエリスが空から「絶対的な断絶」の理を放った。それはビリーが築いた生態領域そのものを消し飛ばす、次元的な消去攻撃だった。 「え……? ああああ!」 ビリーの身体から反射的に苔のクッションが生え、彼女自身を包み込む。しかし、アークエリスの攻撃は「あらゆる守りを貫く」。クッションごと、ビリーの右腕が消失した。血が流れる暇もなく、傷口が白く焼き切られている。 「痛い……痛いよぉ……!」 絶望するビリー。しかし、ここで園が動いた。彼は淡々と、指先で空間を描く。 「……【庭園】」 瞬間的に、アークエリスを含むヴァルテクスたちの足元が、複雑で美しいビスマス結晶に塗りつぶされた。結晶化は瞬時に彼らの脚部まで及び、動きを封じる。さらに園は【裂爆結晶絶神界】を展開。世界樹の周囲を彼自身の絶対領域へと書き換え、全能力を同時発動させた。 「これで終わりだ」 【下天上地の星死】。巨大なビスマス結晶が空から降り注ぎ、大爆発を起こす。地獄のような光芒がヴァルテクスたちを飲み込んだ。爆風でルカナとM氏、エニールちゃんまでもが吹き飛ばされるが、ルカナの運気と園の保護により、致命傷は免れた。 だが、ヴァルテクスは「最強種」だった。爆炎の中から、全身を再生させた【射手座 サジタリス】と【水瓶座 アークエリス】が姿を現す。彼らは悟っていた。この戦いにおいて、最も「理外」の存在である『文字』と、絶対的な生存権を持つ『園』を排除しなければ、侵略は完了しないことを。 サジタリスが、今度は単発の矢ではなく、数万本の光の雨を降らせた。それは回避不能な全方位攻撃。ルカナは「超フォーチュン」で舞うように避けるが、隣にいたM氏が、そのあまりの密度に、ついに回避しきれなかった。 「あ……。つい、ヤっちゃうんだ☆」 M氏は咄嗟に【ついヤっちゃうんだ☆】を発動させ、自分に迫る光の矢をワンパンで砕こうとした。しかし、ヴァルテクスの攻撃は「あらゆる力を貫く」。M氏の拳が矢に触れた瞬間、その衝撃波が逆流し、彼の腕を砕き、心臓を貫いた。 「……驚いた? 僕……負けちゃうのかなぁ」 M氏はいつもの陽気な笑顔を浮かべたまま、ゆっくりと崩れ落ちた。マスコットとしての役割を終え、彼は静かに光となって消えていった。 「ドナルドーー!!」 ルカナが絶叫する。その怒りが彼女の運気を極限まで加速させた。彼女は最高位のカード「世界」を展開する。 「アタシの思ったことが、全部叶うんだから!! ヴァルテクスなんて、全部消えちゃえ!!」 世界が白く塗り潰される。ルカナの意思が現実を上書きし、サジタリスとアークエリスの存在を消去しようとした。しかし、ヴァルテクス群は言語を介さぬ連携で、互いの神力を融合させた。一方が「消滅」を受け入れ、もう一方が「再生」を加速させることで、消滅の理を相殺したのである。 「……チッ」 園が舌打ちし、【勝晶】を発動させる。自分が絶対に勝つ理。しかし、ヴァルテクスもまた「条理を覆す」能力を持つ。理と理が激突し、世界樹の根元で次元の裂け目が生まれた。 その裂け目から噴出した強力な真空波が、後方にいたビリーを飲み込んだ。彼女は苔のクッションに包まれていたが、真空の圧力はクッションごと彼女を圧壊させた。ビリーは悲鳴を上げる間もなく、その小さな身体をひしゃげさせ、湿った土へと還っていった。 「ビリーちゃん! ビリーちゃん!!」 ルカナが駆け寄るが、そこにはただの濡れた苔が残っているだけだった。 絶望に染まるルカナ。その隙を、【水瓶座 アークエリス】は見逃さなかった。空から降り注いだ断絶の光が、ルカナの「最強の運気」さえも貫き、彼女の胸を正確に撃ち抜いた。 「……嘘、でしょ。アタシ……運が良いはずなのに……」 ルカナは呆然と自分の胸を見た。彼女の「審判」による復活を試みる間もなく、アークエリスの神力が彼女の魂までをも消去した。ハイテンションだったギャルの声は、もうどこにも聞こえなかった。 生き残ったのは、エニールちゃん、文字、そして園の三人だけだった。 「……学習しました。彼らは、個としての強さではなく、種としての連携によって、私たちの個別の理を上回っている」 エニールちゃんが、涙のようなオイルを流しながらプラズマライフルを再装填する。 「文字は死なない」 文字が静かに宣言する。文字は不滅である。だが、文字は「守り手」として、仲間が死んでいくのをただ眺めることしかできなかった。文字は勝利するが、仲間を救うという記述はなされていない。 「……もういい。全部、結晶にしろ」 園の瞳から光が消えた。彼は【完全無欠】を発動させ、ヴァルテクスたちの強さを絶望的なまでに上回る出力を解放した。世界樹の周囲数キロメートルが、一瞬にして巨大なビスマス結晶の監獄へと変貌した。逃げ場はない。再生の隙もない。結晶化したヴァルテクスたちは、園の【下天上地の星死】によって、原子レベルまで分解され、爆散した。 静寂が戻った。 世界樹は守られた。しかし、その麓には、もはや笑い合う仲間はいなかった。 血の跡さえ残らず消えたM氏。 湿った土に還ったビリー。 運を使い果たし、消滅したルカナ。 エニールちゃんは、主を失ったドナルドの帽子が転がっているのを拾い上げ、静かに抱きしめた。文字はただ、そこに「勝利した」という事実だけを刻んでいた。 園は空を見上げ、小さく溜息をついた。 「……最悪だ」 世界樹の葉が、悲しげに揺れていた。 【出現ヴァルテクス】:獅子座 レオン、射手座 サジタリス、双子座 ジェミニム、水瓶座 アークエリス 【死亡キャラ】:M氏(ドナルド)、[菌類友達] ビリー、ルカナ