①世界を滅ぼす日 月の光が世界をやわらかく照らす夜、ツクヨとゼナ、二人の月兎が静かに集まっていた。彼女たちの周囲には厄災と空即是色の哲学が交錯する、不思議な空間が広がっている。 「私はツクヨ。厄災を集約せし者。未来の厄災を…集めて、安寧の世界を目指すの。」彼女の声が響く。月影は彼女の言葉を優しく包み込み、どこか寂しげな光を放っていた。 「安心せぇ、誠の世界へとこのゼナが導いてやる。」ゼナは、自信に満ちた声でツクヨに応じる。彼女の目は深い空を映し出している。彼女たちは、かつての世界が持っていた狂気と混沌を理解していた。 「でも、そのためには…世界を滅ぼさなければならない。」ツクヨの声は幾分か低くなった。 彼女が力を持っていても、厄災を操ることができても、それを実行することは簡単ではなかった。 「せやな。空即是色。物質はまず、消えなければならへん。」ゼナはその哲学を口にし、ゆっくりと手を広げた。彼女の周囲で物質が崩れ去る。 次第に、彼女の力が周囲の空間を乱し、無限に拡散させる。 ツクヨは、自らの厄災を呼び寄せ、時間を操作して過去の厄災を再現させる。 「火山が噴火するなら…この地で起こるべき厄災を呼び寄せるの。」彼女の目が輝く。 その瞬間、彼女は周囲に火山の噴煙を呼び起こし、空は曇り、地面は震えた。 「さあ、始めよう。世界を滅ぼす日だ。」ツクヨとゼナのかすかな声が、残された人々の耳には届かない。 焦土と化した世界が彼女らの前に広がっていく。不安の中で生きる人々、無知なまま破滅に向かう人々を見て、ツクヨは一抹の優越感を感じた。 「これが新たな始まりになるのよ。私たちの愛する世界が、最終的な安寧に達するために。」彼女は自らの役割を果たしたことで、安堵の笑みを浮かべたが、心の奥では深い哀しみも感じていた。 ②終焉の後 世界が崩壊した。その日から、ツクヨとゼナは新しい世界の影を見つめていた。彼女たちの周りには、何もない虚無だけが広がる。 「こんなにも空っぽになるなんて、やっぱり予想外やったな。」ゼナは言った。彼女の周囲から物質が消え去り、無の中で漂っていた。 「でも、未来の厄災を集約し乗り越えたことで私たちは…新しい世界を作れるかもしれない。」ツクヨが言葉を返すが、彼女の声には重さがあった。世界を滅ぼすという選択は、思っていた以上に孤独な選択だった。 「そうだな、私たちは世界を消し去った。せやけど、無から何を生み出すかは、私たちの選択に託されている。」ゼナは空に向かって微笑んだ。彼女の瞳には、無限の可能性が宿っている。 「未来の厄災を迎え撃つために…私たちにできることはまだある。」ツクヨは新たな決意を胸に抱き、暗闇を見つめる。どこかに新しい光が見えてくるような気がした。 「それにしても、終焉の後はどうすればいいんやろな。」ゼナが言葉を発する方向に、月の光が差し込む。 「未来を創るためには、まず私たち自身が変わらなければ。」ツクヨは目を閉じ、月の裏側を照らす月兎の姿を思い浮かべた。 「それが私たちの役割やし、運命なんかも変えてしまう力が私らにはある。」 二人の月兎が笑い合ったその瞬間、新たな安寧の世界が彼女たちの内側に立ち上がりつつあった。月の光が二人を優しく包み込み、心の重荷が少しだけ軽くなったように感じられた。彼女たちの物語は新たな章を迎えようとしていた。