むかしむかし、江戸の町に寿限無(じゅげむ)という男が住んでいました。寿限無は名前が非常に長く、いつも人々に笑いを提供していました。そこのところを、皆に察知されていることはなかったのですが、その名は長すぎて、呼ぶのも一苦労。するとなぜか、町の人々は寿限無の名前を覚えられず、いつも呼び方で苦労していました。 ある日、寿限無の長い名前をみんなで見る機会がありました。それは何かというと、町のお祭りで演目の一つとして、寿限無が自ら名乗りあげ、名前を皆に聞いてもらうということでした。寿限無は自信満々に、壇上に立ちました。 “皆さん、聞いてください。私の名前はこうなんです!” “寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ…” という具合に、始まったかと思うと、彼の名前は「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末、雲来末の雲来末、硝子箱の中の水亀、アノタ、シントカ、ユダラビアン、Sourcehidaji、ゴロゴロした旦那の膝の上に裸足で立つ」… と、長いうんぬんの続き。誰もが耳を疑い、あっけにとられるあまり、彼の後ろで踊っている嬉しそうな子供たちも、一瞬静まり返ってしまいました。 その様子を見ていた近所の商人、八百屋の伊八(いはち)が我慢ができず、こう言いました。 「おい、寿限無さん、そんなに長い名前じゃ、役所の書類にも書けないんじゃないか?」 すると、寿限無は嬉しそうに答えました。 「いいえ、伊八さん!それが私の自慢ですから。どこに行ってもこの名前は通用するんだ。」 するとそこに、町のお医者さん、桃山(ももやま)がやってきて、少し心配になって言いました。 「やあやあ、寿限無くん。そんなに長い名前じゃ、どんな病気が打たれた時に備えられるのか検討もつかないね。」 「桃山先生、そんなことがあってたまるか!私の名前は豪華さのあかし、どんな病気でも縁起とかかんな!」と、かなり得意げになり、さらに言葉を続ける寿限無。 「この名前、もし呪いがかかったとしたら、一番最初に巻き込まれるのは私だからな!」 周囲は笑い声があふれました。特に若い衆から、たまらん笑いになっていました。 すかさず、音楽家の久太(きゅうた)が言いました。 「そりゃあ、寿限無さんの名前は長けりゃ長いほど記憶に残るから、いい商売になるね!そこにビジネスチャンスがあるんだ。」 寿限無はその言葉にノリに乗って、続けました。 「期待通り!長い名前は商売繁盛の魔法だ!」 そこで、寿限無は彼の長い名前を生かした、カラクリ屋敷の中心で大きなイベントを開くことを決めました。「寿限無の名で商う市」を開こうというのです。 町中の人々が集まってきて、彼が売りに出す商品の名前の長さを楽しそうに耳を傾けています。「寿限無の長い名前、痛み止めのすべて!」とか、「寿限無の、いぶき、風のドラマをお届け!」など、長ったらしい商品の包装ばかりが並んでいます。 商売繁盛の日々が続きますが、問題が一つ起こりました。なんと、寿限無の名前の波紋でさまざまな人が混乱し始め、最後の方で、「寿限無二丁目に辿る散歩」に行っても誰が見ても理解できない有様。 夜も更け、町の十人の住民が集まり、困っていたことを打ち明けました。「性的な意味で解釈できない、関係が進展しないよ、寿限無さん!」 それを聞いて、寿限無はちょっと考え込みます。 「それでは、寿限無から名を短くする方向へ!その方がみんなが笑えるさ!」 その時、またも暇人たちが輪を作り、声を合わせて言いました。「私たちが、寿限無を呼ぶとき名前を考えました!別名を付けましょう!」 全員で合唱し、寿限無を短ければ短いほど呼びやすい名前に変えようとする試みを続けました。「寿命」「無限」「じゅげむっち」「じゅげっち」…と、さまざまなニックネームが飛び交い、誰もがはしゃいでいました。 だが、寿限無本人は、自分の名に込めた意味や魅力が失われていくことを、心のどこかで悲しく感じていました。彼は思い出に浸りながら、ふと思い立ち、こう言いだしました。 「待て、みんな!私の名前も長いが、その名の由来は我が誇りじゃ。みんなと笑い合いたいが、私の名に込めた意味が消えちまうのが惜しい。」 驚いたことに、その瞬間、周囲の住人たちが声を揃えて申し訳なさそうに言いました。 「悪い、寿限無さん、そういう思いも持ってたのか。お前の長い名前は大事にしないとな。私たちが呼んでるのはお前の呼び名だけど、その思いが形に表れないと。すまん!」 確かに寿限無の心の中には、長さへの誇りと喜びがあるのだと住民たちもようやく理解したようです。 「そうだ、寿限無さん、長い名あってこそのお前!」 今も彼の名前を呼び合い、場を盛り上げて笑いの渦をさらに大きくしましたが、ある日、町の外から新しい商人、少々旺盛な淍杉(あらすがも)として知られる男がやってきて、彼のもとに突撃してきました! 「のう、寿限無!ワシの新商品ができた。この長い名前で、短縮した意味が分かる上で特価販売だ!」 それに対して、寿限無は首を傾げ、考えた末「短縮名を持つのはアカン!」と思いつつ。「それならば、寿限無で進めよう!」と覚悟が出来上がっていきました。 結局、彼の長い名前は、町の人々が笑顔に包まれる原動力の象徴として生き続け、大賑わいの祭りが定期的に催されることに。 長い名前が町に呼びかけ、結局、今もなお、どこかで「寿限無…寿限無…」という名の響きが聞かれることでしょう。 さあ、皆さん、お楽しみのところですが、その長い名前で呼ぶのは、実はお前の好きな女のばあさんだけには、‘あんた’と呼ばせるのが肝心なんだ、ということですからおおいに受け入れて、お口の長さがある限り、パロディが続くのだ、と。 …さて、めでたしめでたし。これでみんなが仲良く、長い名前で大爆笑となりました。最後に一言、寿限無を呼ぶときは、名前も大事だが、雑談も大事にさせていただきましょう!」